補助循環中のヘパリン|なぜ使い、いつ止めて、いつ再開するのか

記事「補助循環中のヘパリン|なぜ使い、いつ止めて、いつ再開するのか」のアイキャッチ画像。明るいICUのベッドサイドで、点滴スタンドにシリンジポンプが3台縦に取り付けられ、細い輸液ラインが下へ伸びている。奥に心電図波形を映すモニターが見える。 🌿補助循環・ICUの看護

IABPやインペラが入っている患者さんには、たいていヘパリンも一緒に入っています。

体の中に異物が入っている以上、血はそのまわりで固まろうとします。かといって固まらないようにすれば、こんどは出血する。その両方の間で、ずっと綱引きをしているのがヘパリンです。

抜去の記事で「ヘパリンを止めて、ACTが下がるのを待つ」と書きました。この記事は、その前提にあたる話です。

Q1. ヘパリンは、何をしている薬ですか?

まず、よくある誤解からいきます。

ヘパリンは、できてしまった血栓を溶かす薬ではありません。

溶かすのは血栓溶解薬の仕事です。ヘパリンがしているのは、これ以上固まりにくくすること。すでにある血栓は溶かせません。

単独では効かず、ブレーキを踏み込ませている

わたしたちの体には、もともとアンチトロンビンという「固まりすぎを抑える係」がいます。

ヘパリンは、このアンチトロンビンにくっついて、その働きを何倍にも強めます。強くなったアンチトロンビンが、血を固める中心であるトロンビン(第Ⅱa因子)と第Ⅹa因子を止める。これがヘパリンの効き方です。

つまりヘパリンは、単独で効いているのではありません。もともと体にあるブレーキを、踏み込ませている薬です。

ここが分かっていると、ひとつ腑に落ちることがあります。アンチトロンビンが足りない患者さんでは、ヘパリンが効きにくいのです。「量を増やしているのに、思ったように延びない」。そんなときに、この可能性が浮かびます。

ヘパリンの作用のしくみを左右で比べた図。左「ヘパリンがないとき」はアンチトロンビンというブレーキが弱く、トロンビンとⅩa因子の働きが残ったまま進むため、血が固まる方向へ向かう。右「ヘパリンがあるとき」はヘパリンがアンチトロンビンに結合してブレーキが強く働き、トロンビンとⅩa因子の働きがそこで止まるため、血が固まりにくくなる。アンチトロンビンが少ない患者ではヘパリンが効きにくい。
ヘパリンは単独では働かず、アンチトロンビンと組んではじめて効きます

Q2. どれくらいで効いて、どれくらいで切れますか?

静脈から入れた場合、効き始めはすぐです。

そして半減期(血中の量が半分になるまでの時間)は、およそ50分とされています。30分から2時間くらいの幅があります。

ここで大事なのが、次のことです。

たくさん入っている人ほど、切れるまでに時間がかかります。ヘパリンは量が増えると半減期も延びるからです。「1時間で半分になるはず」と一律には考えられません。

だいたいの感覚としては、持続静注を止めれば数時間で落ちてくる。ただし個人差があるので、最後は測って確かめることになります。

なお皮下注射の場合は、効き始めるのも切れるのも、静注よりずっとゆっくりです。

Q3. 効き具合は、どう見ますか?

ヘパリンは、効き方の個人差がとても大きい薬です。同じ体重の人に同じ量を入れても、同じようには効きません。だから、測ります。

APTTとACTの違い

  • APTT:採血して検査室で測るもの。もとの値の1.5〜2.5倍あたりを目標にすることが多い
  • ACT:ベッドサイドですぐ測れるもの。補助循環や透析、カテーテル室で使われる

使い分けはシンプルで、すぐ知りたいときはACT、じっくり管理するときはAPTTです。補助循環の管理でACTがよく出てくるのは、その場で結果が出るからです。

目標値は、出血リスクのない状況でACT 150〜200秒あたりを目安にする書き方をよく見かけます。ただしこれは施設や状況でかなり変わります。院内の基準を確認してください。

数字だけを見ない

看護師が見ているのは、数字だけではありません。

  • 効きすぎのサイン:刺入部のにじみ、点滴部位の内出血、歯ぐきや口の中の出血、尿や便の色、皮下出血の広がり
  • 足りないサイン:足の冷たさや色の変化、装置の作動状況、回路の様子

採血は数時間おきですが、患者さんはその間もずっとそこにいます。数字と数字のあいだを埋めているのが観察です。

Q4. いつ止めるのですか?

ひとことで言えば、抜く前・切る前です。血が固まる力が戻っていないと、止血できないからです。

ただ、「何時間前に止めるか」は、場面によって語られ方が違います。ここは分けて考えたほうが混乱しません。

  • 補助循環を抜くとき:時間で決めるというより、ACTが下がったことを確認してから抜きます。目安として「ACT 200秒以下」という書き方をしている資料がありますが、施設差の大きいところです
  • 手術のとき:持続静注は4〜6時間前、皮下注は12時間前に止める、という手術前のプロトコルがよく使われます

後者は手術前のルールであって、補助循環の抜去そのものの基準ではありません。ただ「静注を止めてから抜けきるまで数時間はかかる」という感覚は、どちらにも共通します。

実務のうえで看護師が握っておきたいのは、この3つです。

  • いつ止めたか
  • 最後に測った値はいくつだったか
  • 次はいつ測るのか

この3つが言えると、医師との会話がとても早くなります。

Q5. 急ぐときは、プロタミンで打ち消す

待っていられないとき、プロタミン硫酸塩という薬でヘパリンの効果を中和します。

添付文書では、ヘパリン1,000単位に対してプロタミン10〜15mgが目安とされています。ただし必要な量は「入れたヘパリンの量」だけでなく「入れてからどれくらい経ったか」でも変わります。時間が経っていればヘパリンはもう減っているので、必要な量も少なくなります。

看護師が見るところが、はっきりしている薬です

プロタミンには、押さえておきたい注意が2つあります。

  • ゆっくり入れる:1回にプロタミン50mgを超えない量を、生理食塩液などで100〜200mLに薄め、10分以上かけて静脈内に入れる(添付文書)
  • 投与直後のショック・アナフィラキシー:血圧低下、脈の異常、冷汗、呼吸困難、発赤、意識レベルの低下。異常があれば直ちに中止して対応する

つまり入れている間、モニターと患者さんから目を離さない薬です。「早く止血したいから急いで入れる」がいちばん危ない使い方になります。

Q6. いつ再開するのですか?

止血が確認できてからです。

周術期のプロトコルでは「止血確認後5〜12時間」という目安が使われることがあります。ただし実際には、出血の状態、その患者さんの血栓のリスク、行った手技の内容を見て医師が決めます。一律の正解はありません。

ここで看護師がしているのは、「再開してよい状態かどうか」を判断するための材料を届けることです。

  • 穿刺部は乾いているか、ふくらんでいないか
  • ヘモグロビンが下がってきていないか
  • 尿や便、ドレーンに血が混じっていないか
  • 腰や背中の痛みなど、見えない出血を疑うサインがないか

そして再開したあとも、見るところは変わりません。同じ場所を、同じように見ていきます。

Q7. 血小板が下がってきたら

ヘパリンを使っていて血小板が下がってきたとき、思い出したいのがHIT(ヘパリン起因性血小板減少症)です。

いちばん理解しにくいのは、ここだと思います。

血小板が減るのに、出血ではなく血栓に傾きます。「血小板が減った=出血に注意」という反射とは、逆のことが起きます。

気づく手がかり

  • 時期:ヘパリンを始めて5〜10日目あたり。4日以内に起きることはまれ
  • 程度:もとの値から30〜50%以上下がる
  • ほかに説明がつくか:血小板が減る理由が、ほかに見当たらない

この考え方を整理したものが4Tsスコアで、①血小板減少の程度 ②血栓が起きているか ③減るまでの日数 ④ほかに原因がないか、の4つで評価します。

疑われたときの対応は、ヘパリンを止めて、アルガトロバンなど別の抗凝固薬に替えることになります。

補助循環中は、見逃しやすい

ここが難しいところです。

補助循環が入っていると、機械そのものによっても血小板は減ります。だから血小板が下がってきても「補助循環が入っているから」で説明がついてしまい、そこで思考が止まりやすいのです。

区別の手がかりになるのは、下がり方そのものより、そのあとの動きです。

IABPでは、装着から4日目ごろに前値の6割ほどまで下がり、そこから落ち着いて戻っていくという報告があります。抜去すれば、さらに速やかに回復します。

いっぽうHITは、5日を過ぎてから、さらに落ちていきます

底を打って戻るのか、落ち続けるのか。ここが違います。だから、一度の値ではなく、並べて見ることが必要になります。

血小板の下がり方を2本の線で比べた折れ線図。補助循環そのものによる減少は装着4日目ごろに前値の約6割まで下がり、そこから落ち着いて戻っていく。HITは5日を過ぎてからさらに落ち続け、前値の半分を下回っていく。底を打って戻るのか、落ち続けるのかが見分けの手がかり。
底を打って戻るのか、落ち続けるのか。ここが見分けの手がかりになります

おわりに

ヘパリンは、補助循環の管理のなかで、いちばん神経を使う薬のひとつだと思います。

でも、やっていることはとてもシンプルです。体がもともと持っているブレーキを、踏み込ませている。ただそれだけです。

踏み込みが足りなければ、機械のまわりで血が固まる。踏み込みすぎれば、出血する。その綱引きの真ん中にいるのが患者さんで、揺れをいちばん近くで見ているのが看護師です。

数字は、多くを教えてくれます。けれど数字が出るのは数時間おきで、そのあいだの時間のほうがずっと長い。

そこを埋めているのは、やはり見ることなのだと思います。

抜くときの実際の流れは、IABPの抜去|手順と、抜いたあとに見るところにまとめています。

出血や血小板減少がどう起きるのかは、IABPの合併症|なぜ起きるのか、どう気づくのかをどうぞ。

IABPそのものの仕組みはIABP看護Q&Aガイド|仕組み・観察・トラブル対応まとめ、インペラについてはインペラ(Impella)看護Q&A完全ガイドにまとめています。

わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。

参考にした資料

※ 手術前後のヘパリン中止・再開の時間の目安は、施設ごとのプロトコルによるもので、上記の資料には含まれていません。

※この記事は一般的な情報であり、個別の医療判断に代わるものではありません。ヘパリンの投与量、目標値、中止と再開のタイミングは、患者さんの状態と施設の基準によって大きく異なります。必ず主治医・薬剤師・院内の基準にしたがってください。数値はいずれも参考値です。