IABPやインペラが入っている患者さんには、たいていヘパリンも一緒に入っています。
体の中に異物が入っている以上、血はそのまわりで固まろうとします。かといって固まらないようにすれば、こんどは出血する。その両方の間で、ずっと綱引きをしているのがヘパリンです。
抜去の記事で「ヘパリンを止めて、ACTが下がるのを待つ」と書きました。この記事は、その前提にあたる話です。
Q1. ヘパリンは、何をしている薬ですか?
まず、よくある誤解からいきます。
ヘパリンは、できてしまった血栓を溶かす薬ではありません。
溶かすのは血栓溶解薬の仕事です。ヘパリンがしているのは、これ以上固まりにくくすること。すでにある血栓は溶かせません。
単独では効かず、ブレーキを踏み込ませている
わたしたちの体には、もともとアンチトロンビンという「固まりすぎを抑える係」がいます。
ヘパリンは、このアンチトロンビンにくっついて、その働きを何倍にも強めます。強くなったアンチトロンビンが、血を固める中心であるトロンビン(第Ⅱa因子)と第Ⅹa因子を止める。これがヘパリンの効き方です。
つまりヘパリンは、単独で効いているのではありません。もともと体にあるブレーキを、踏み込ませている薬です。
ここが分かっていると、ひとつ腑に落ちることがあります。アンチトロンビンが足りない患者さんでは、ヘパリンが効きにくいのです。「量を増やしているのに、思ったように延びない」。そんなときに、この可能性が浮かびます。

Q2. どれくらいで効いて、どれくらいで切れますか?
静脈から入れた場合、効き始めはすぐです。
そして半減期(血中の量が半分になるまでの時間)は、およそ50分とされています。30分から2時間くらいの幅があります。
ここで大事なのが、次のことです。
たくさん入っている人ほど、切れるまでに時間がかかります。ヘパリンは量が増えると半減期も延びるからです。「1時間で半分になるはず」と一律には考えられません。
だいたいの感覚としては、持続静注を止めれば数時間で落ちてくる。ただし個人差があるので、最後は測って確かめることになります。
なお皮下注射の場合は、効き始めるのも切れるのも、静注よりずっとゆっくりです。
Q3. 効き具合は、どう見ますか?
ヘパリンは、効き方の個人差がとても大きい薬です。同じ体重の人に同じ量を入れても、同じようには効きません。だから、測ります。
APTTとACTの違い
- APTT:採血して検査室で測るもの。もとの値の1.5〜2.5倍あたりを目標にすることが多い
- ACT:ベッドサイドですぐ測れるもの。補助循環や透析、カテーテル室で使われる
使い分けはシンプルで、すぐ知りたいときはACT、じっくり管理するときはAPTTです。補助循環の管理でACTがよく出てくるのは、その場で結果が出るからです。
目標値は、出血リスクのない状況でACT 150〜200秒あたりを目安にする書き方をよく見かけます。ただしこれは施設や状況でかなり変わります。院内の基準を確認してください。
数字だけを見ない
看護師が見ているのは、数字だけではありません。
- 効きすぎのサイン:刺入部のにじみ、点滴部位の内出血、歯ぐきや口の中の出血、尿や便の色、皮下出血の広がり
- 足りないサイン:足の冷たさや色の変化、装置の作動状況、回路の様子
採血は数時間おきですが、患者さんはその間もずっとそこにいます。数字と数字のあいだを埋めているのが観察です。
Q4. いつ止めるのですか?
ひとことで言えば、抜く前・切る前です。血が固まる力が戻っていないと、止血できないからです。
ただ、「何時間前に止めるか」は、場面によって語られ方が違います。ここは分けて考えたほうが混乱しません。
- 補助循環を抜くとき:時間で決めるというより、ACTが下がったことを確認してから抜きます。目安として「ACT 200秒以下」という書き方をしている資料がありますが、施設差の大きいところです
- 手術のとき:持続静注は4〜6時間前、皮下注は12時間前に止める、という手術前のプロトコルがよく使われます
後者は手術前のルールであって、補助循環の抜去そのものの基準ではありません。ただ「静注を止めてから抜けきるまで数時間はかかる」という感覚は、どちらにも共通します。
実務のうえで看護師が握っておきたいのは、この3つです。
- いつ止めたか
- 最後に測った値はいくつだったか
- 次はいつ測るのか
この3つが言えると、医師との会話がとても早くなります。
Q5. 急ぐときは、プロタミンで打ち消す
待っていられないとき、プロタミン硫酸塩という薬でヘパリンの効果を中和します。
添付文書では、ヘパリン1,000単位に対してプロタミン10〜15mgが目安とされています。ただし必要な量は「入れたヘパリンの量」だけでなく「入れてからどれくらい経ったか」でも変わります。時間が経っていればヘパリンはもう減っているので、必要な量も少なくなります。
看護師が見るところが、はっきりしている薬です
プロタミンには、押さえておきたい注意が2つあります。
- ゆっくり入れる:1回にプロタミン50mgを超えない量を、生理食塩液などで100〜200mLに薄め、10分以上かけて静脈内に入れる(添付文書)
- 投与直後のショック・アナフィラキシー:血圧低下、脈の異常、冷汗、呼吸困難、発赤、意識レベルの低下。異常があれば直ちに中止して対応する
つまり入れている間、モニターと患者さんから目を離さない薬です。「早く止血したいから急いで入れる」がいちばん危ない使い方になります。
Q6. いつ再開するのですか?
止血が確認できてからです。
周術期のプロトコルでは「止血確認後5〜12時間」という目安が使われることがあります。ただし実際には、出血の状態、その患者さんの血栓のリスク、行った手技の内容を見て医師が決めます。一律の正解はありません。
ここで看護師がしているのは、「再開してよい状態かどうか」を判断するための材料を届けることです。
- 穿刺部は乾いているか、ふくらんでいないか
- ヘモグロビンが下がってきていないか
- 尿や便、ドレーンに血が混じっていないか
- 腰や背中の痛みなど、見えない出血を疑うサインがないか
そして再開したあとも、見るところは変わりません。同じ場所を、同じように見ていきます。
Q7. 血小板が下がってきたら
ヘパリンを使っていて血小板が下がってきたとき、思い出したいのがHIT(ヘパリン起因性血小板減少症)です。
いちばん理解しにくいのは、ここだと思います。
血小板が減るのに、出血ではなく血栓に傾きます。「血小板が減った=出血に注意」という反射とは、逆のことが起きます。
気づく手がかり
- 時期:ヘパリンを始めて5〜10日目あたり。4日以内に起きることはまれ
- 程度:もとの値から30〜50%以上下がる
- ほかに説明がつくか:血小板が減る理由が、ほかに見当たらない
この考え方を整理したものが4Tsスコアで、①血小板減少の程度 ②血栓が起きているか ③減るまでの日数 ④ほかに原因がないか、の4つで評価します。
疑われたときの対応は、ヘパリンを止めて、アルガトロバンなど別の抗凝固薬に替えることになります。
補助循環中は、見逃しやすい
ここが難しいところです。
補助循環が入っていると、機械そのものによっても血小板は減ります。だから血小板が下がってきても「補助循環が入っているから」で説明がついてしまい、そこで思考が止まりやすいのです。
区別の手がかりになるのは、下がり方そのものより、そのあとの動きです。
IABPでは、装着から4日目ごろに前値の6割ほどまで下がり、そこから落ち着いて戻っていくという報告があります。抜去すれば、さらに速やかに回復します。
いっぽうHITは、5日を過ぎてから、さらに落ちていきます。
底を打って戻るのか、落ち続けるのか。ここが違います。だから、一度の値ではなく、並べて見ることが必要になります。

おわりに
ヘパリンは、補助循環の管理のなかで、いちばん神経を使う薬のひとつだと思います。
でも、やっていることはとてもシンプルです。体がもともと持っているブレーキを、踏み込ませている。ただそれだけです。
踏み込みが足りなければ、機械のまわりで血が固まる。踏み込みすぎれば、出血する。その綱引きの真ん中にいるのが患者さんで、揺れをいちばん近くで見ているのが看護師です。
数字は、多くを教えてくれます。けれど数字が出るのは数時間おきで、そのあいだの時間のほうがずっと長い。
そこを埋めているのは、やはり見ることなのだと思います。
抜くときの実際の流れは、IABPの抜去|手順と、抜いたあとに見るところにまとめています。
出血や血小板減少がどう起きるのかは、IABPの合併症|なぜ起きるのか、どう気づくのかをどうぞ。
IABPそのものの仕組みはIABP看護Q&Aガイド|仕組み・観察・トラブル対応まとめ、インペラについてはインペラ(Impella)看護Q&A完全ガイドにまとめています。
わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。
参考にした資料
- 日本血栓止血学会「ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の診断・治療ガイドライン」── HITの発症時期、血小板減少の程度、4Tsスコア、治療
- 日本血栓止血学会誌「未分画ヘパリン」── 作用機序、半減期、モニタリング
- 「プロタミン硫酸塩静注100mg」添付文書情報 ── 中和に必要な量、希釈と投与速度、ショック・アナフィラキシー
- Association of thrombocytopenia with the use of intra-aortic balloon pumps(The American Journal of Medicine, 1998)── IABP装着中の血小板の経過
- Clinical Implications of Thrombocytopenia Among Patients Undergoing Intra-aortic Balloon Pump Counterpulsation in the Coronary Care Unit(Clinical Cardiology, 2010)── IABPと血小板減少
※ 手術前後のヘパリン中止・再開の時間の目安は、施設ごとのプロトコルによるもので、上記の資料には含まれていません。
※この記事は一般的な情報であり、個別の医療判断に代わるものではありません。ヘパリンの投与量、目標値、中止と再開のタイミングは、患者さんの状態と施設の基準によって大きく異なります。必ず主治医・薬剤師・院内の基準にしたがってください。数値はいずれも参考値です。



