インペラを受け持つと、必ず一度は思うことがあります。
「なぜ、ブドウ糖なんだろう」
生理食塩液ではいけないのか。なぜ濃度を変えることがあるのか。この記事は、そこに絞って書きます。
Q1. パージ液は、何をしているのですか?
モータの中に血液が入らないよう、押し返しています。
インペラは、カテーテルの中にモータが入っています。プロペラを高速で回すためです。
ということは、モータと血液が、すぐ隣り合っているということでもあります。血液がモータの中に入り込めば、そこで固まります。
そこで、加圧したブドウ糖液を、血液の流れと逆向きに流し続けます。
血液が入ろうとする方向に、液がずっと出続けている。この圧の壁(圧バリア)で、血液の侵入を防いでいます。これがパージシステムです。
つまりパージ液は、薬として体に効かせるものではなく、機械を守るために流している液です。ここが点滴と違うところです。
Q2. なぜ、ブドウ糖なのですか?
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
濃度を変えることで、パージの圧を調整できるからです。
濃度が「調整つまみ」になっている
ブドウ糖液は、濃いほど流れにくくなります。流れにくい液を同じ量だけ送ろうとすれば、圧は上がります。逆に薄い液なら、圧は下がります。
この性質が、そのまま調整に使われています。ハンドブックのトラブル対応を見ると、はっきりします。
| 状態 | 原因のひとつ | 対処 |
|---|---|---|
| パージ圧が低い | ブドウ糖の濃度が低い | 高い濃度の液に交換する |
| パージ圧が高い | ブドウ糖の濃度が高すぎる | 低い濃度の液に交換する |
圧が足りなければ濃くする。圧が上がりすぎたら薄める。濃度が、そのままつまみになっています。
生理食塩液では、この調整ができません。濃さを変えるという発想が使えないからです。
「なぜブドウ糖なのか」の答えは、圧を作れて、しかもその圧を濃度で動かせるからということになります。
ただし、濃度を変えるのはパージ圧のアラームが出たときです。ふだんから上げ下げするものではありません。
Q3. 何を、どれだけ入れるのですか?
ハンドブックの推奨は、はっきりしています。
- 5%ブドウ糖液 500mL
- そこにヘパリンを1mLあたり50単位添加(患者さんの状況に応じて調整)
使用できるブドウ糖の濃度は5〜40%と幅がありますが、制御装置で選べるのは5%・10%・20%です。ヘパリンの濃度も、0単位/mLから50単位/mLまで段階で選べます。
なお、上の数字はハンドブックに書かれている推奨値です。とくにヘパリンの量は、患者さんの状態と施設の取り決めによって変わります。自施設のプロトコルを確認してください。
ヘパリンが0を選べるのは、HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)などでヘパリンが使えない患者さんがいるからです。その場合は重炭酸ナトリウムのパージ液に替えることがあります。
濃度を変えたあとに、ひとつ手順があります
ブドウ糖の濃度を変えたときは、プライミング(フラッシュ)を行います。新しい濃度の液を、早くモータまで届けるためです。
ここを飛ばすと、しばらくは前の濃度の液が流れ続けることになります。「変えたのに圧が動かない」と焦る前に、フラッシュしたかを思い出してください。
Q4. パージのアラームが鳴ったら
制御装置は、パージ圧が決められた範囲に収まるように、パージ流量を自動で調節しています。
だから圧と流量は、いつもセットで動きます。どこかが詰まれば圧が上がって流量が落ち、どこかから漏れれば圧が下がって流量が増える。この組み合わせで、何が起きているかが読めます。
| アラーム | 鳴る条件 | 疑うこと | やること |
|---|---|---|---|
| パージ圧低下 | 圧が300mmHg未満で、流量が30mL/hr以上のまま30秒以上 | 液漏れ・接続の緩み/濃度が低い | 接続部と液漏れを確認。なければ高濃度に交換。20分たっても直らなければパージ用セットを交換 |
| パージ圧上昇 | 圧が1,100mmHg以上、流量が2mL/hr未満 | どこかの折れ曲がり/濃度が高すぎる | ラインの折れを確認。なければ低濃度に交換 |
| パージシステム閉塞 | 流量が1mL/hr未満 | 閉塞・折れ曲がり/濃度が高すぎる | 閉塞と折れを確認。低濃度に交換 |
| パージシステム液漏れ | 圧が100mmHg未満のまま20秒以上 | 接合部の緩み・漏れ/パージカセットの故障 | 接合部を確認。見て漏れがなくてもパージ用セットを交換 |
| パージシステム故障 | 制御装置が異常を検知 | パージカセットまたは制御装置の異常 | パージ用セットを交換 → 直らなければ制御装置を交換 |
看護師が最初に見るのは、濃度ではなく「物理的な原因」のほうです。液漏れ、接続の緩み、ラインの折れ曲がり。
特に折れ曲がりは、体の中に入っているカテーテルで起きていることもあります。見えるところだけを追って「異常なし」としないことです。
Q5. 毎日、看護師が見るところ
- パージ圧とパージ流量の数値(制御装置の画面下部に、いつも表示されています)
- ヘパリンが添加されているか(種類と濃度を申し送りで必ず引き継ぐ)
- ブドウ糖液の残量(空にすると、モータを守るものがなくなります)
- 接続部からの漏れ
- ラインの折れ曲がり
- 液の色(赤みがあれば血液の混入や溶血を疑い、報告する)
いちばん上の数値については、過去8時間ぶんの履歴も制御装置で見られます。ブドウ糖とヘパリンがどれだけ入ったか、圧と流量がどう動いてきたか。「今の値」だけでなく「どう変わってきたか」が分かるので、報告するときに役立ちます。
それともうひとつ、ハンドブックにわざわざ書かれていることがあります。
ベッドを動かすとき、インペラを引っ張らないこと。
検査へ出すとき、部屋を移るとき、体位を変えるとき。パージのラインは細く、引かれれば簡単に折れます。「動かす前に、線をたどる」を習慣にしておくと、鳴らさずに済みます。
おわりに
パージ液は、患者さんに効かせる薬ではありません。機械を守るために流れている液です。
だからこそ、止まったときに困るのは患者さんです。モータの中で血が固まれば、ポンプそのものが止まりかねません。
ブドウ糖である理由も、突き詰めれば同じところにたどり着きます。圧を作り、その圧を手元で調整できるようにするため。
意味が分かると、残量を見る目も、ラインをたどる手も、少し変わってくるのではないかと思います。
パージ圧と流量の読み方は、インペラ(Impella)のアラーム対応早見表|原因と最初にやることにまとめています。
パージ液が赤くなるときに疑うことは、インペラ(Impella)の溶血とは|尿の色・採血データで気づくサインをどうぞ。
ヘパリンが使えないときの考え方は、インペラ(Impella)の禁忌とは|看護師が知っておきたい「使えない人・注意が必要な人」に書いています。
インペラ全体の観察項目は、インペラ(Impella)看護Q&A完全ガイド|観察項目・アラーム対応まとめにまとめています。
わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。
参考にした資料
- Impella テキストブック(2022年版・日本アビオメッド)── パージシステムの仕組み、パージ液の組成と選べる濃度、パージ圧のアラーム条件と対処、ICU管理のチェック項目
※この記事は一般的な情報であり、個別の医療判断に代わるものではありません。パージ液の組成・濃度の変更・アラームへの対応は、必ず装置の取扱説明書、主治医・臨床工学技士の指示、院内の基準にしたがってください。数値は機種やバージョンによって異なる場合があります。



