IABPの抜去|手順と、抜いたあとに見るところ

記事「IABPの抜去|手順と、抜いたあとに見るところ」のアイキャッチ画像。窓から光が差し込む明るい病室に、シーツを整えた空のベッドと、モニターのついた循環補助装置・点滴スタンドが静かに置かれている。左側に「補助循環・ICUの看護」「IABPの抜去」「手順と、抜いたあとに見るところ」の文字。 🌿循環・補助循環の看護

ウィーニングが順調に進むと、いよいよ「抜きましょう」という日が来ます。

ただ、抜去は「終わり」ではありません。

そして、見るところが変わるわけでもありません。看護師が見ているのは、入っている間も、抜いたあとも、患者さんの全身です。抜いたからといって、見る範囲が穿刺部だけに縮むわけではありません。

変わるのは、機械が教えてくれなくなることです。IABPの波形も、IABPのアラームも、もうありません。心電図や血圧のモニターは続きますが、IABPが教えてくれていたことは、こんどは自分の目でも確かめにいくことになります。

※ここでは、足の付け根の動脈(大腿動脈)から入れたIABPの抜去を扱います。日本循環器学会のガイドライン(2023年)と、IABPカテーテルの添付文書(5社17製品)を確認して書いています。抜去の手順や止血の方法は、製品と施設の手順によって異なります。

Q1. 抜く前に、何を整えるのですか?

血が固まりにくい状態を、いったん戻します。

IABPが入っている間は、血栓ができないように、ヘパリンなどの抗凝固薬を使っていることが多いと思います。ガイドラインでは、駆動中は適切な抗凝固療法が必要とされています。ですが、そのままでは血が止まりにくい状態です。太い動脈に開いた穴だからです。

そこで、抜く前に、抗凝固療法を中止するか、減らすかが検討されます。IABPカテーテルの添付文書に書かれている手順で、判断するのは医師です。

どのくらい待つか、ACT(活性化凝固時間)などの検査値をどこまで見るかについて、今回確認したガイドライン(2023年)と、IABPのカテーテル・駆動装置の添付文書(25件)には、具体的な数字は書かれていませんでした。施設の手順にしたがいます。

看護師が整えておくこと

  • ヘパリンをいつ止めたか(減らしたか)、施設で決めている検査値(ACTなど)がいくつかを把握しておく
  • 圧迫止血に使うもの(ガーゼ、圧迫用の器具や固定材)をそろえておく
  • 血圧が下がったときにどうするかを、あらかじめ医師と決めておく
  • 抜く直前の足の状態を、あらためて確かめておく(色、温かさ、動脈が触れるか、左右差)

3つめは、物をそろえる話ではなく予測しておく話です。「下がったら、まず何をどうするのか」を先に決めておけると、そのとき慌てずに済みます。

最後のひとつは、あとで効いてきます。抜去後に足を見て「なんだか冷たい気がする」と思ったとき、比べる相手がないと判断できないからです。

Q2. どうやって抜くのですか?

抜去そのものは医師が行います。流れはこうです。

  1. 駆動を止める
  2. バルーンをしぼませる
  3. 抵抗がないことを確認しながら引いてくる
  4. シースを使っている場合は、バルーンをシースの中に引き込まず、シースごと抜く

2番のしぼませ方は、製品によって違います。シリンジでガスを吸ってしぼませる製品(ゼオンメディカル、東海メディカルプロダクツ、泉工医科工業)と、ポンプから外してガスを逃がすと、患者さんの血圧でバルーンがしぼむ製品(ゲティンゲのTRANS-RAYなど)があります。

ポイントは3番の「抵抗がないことを確認しながら」です。

バルーンがしぼみきっていないまま無理に引くと、血管を傷つけてしまいます。だから、しぼませてから、引っかかりがないかを確かめながら抜いていきます。

いつもと違う強い抵抗があるときは、無理に抜かず、外科的な処置で取り出すことを検討する、と書いている添付文書もあります(ゼオンメディカル、ゲティンゲ。ゲティンゲは、血のかたまりでバルーンが引っかかっている可能性を理由に挙げています)。

抜いたあとは、取り出したカテーテル(シースを使った場合はシースも)の全体を点検し、すべて体の外に出ているかを確かめます(添付文書)。日本臨床工学技士会の指針にも、抜去したカテーテルに血栓がついていないか、バルーンに小さな穴(ピンホール)がないかを確認する、とあります。

もう一度IABPが必要になったときは、同じところではなく反対側の大腿動脈から入れる、と書かれています(ゼオンメディカル、泉工医科工業、ゲティンゲ)。

Q3. 止血は、どうするのですか?

医師が用手圧迫、つまり手で押さえて止めます。

時間の目安は、最低15分ほど手で押さえ、そのあと数時間(6時間程度)圧迫して固定しておくという進め方があります。ここも施設差が大きいところなので、院内の取り決めにしたがってください。

時間がたったことだけで止血できたと判断せず、出血がないこと、足の血流が保たれていることを確かめます。

そして、この圧迫にはちょうどよさがあります。

  • 弱すぎると、穿刺部から出血したり、皮膚の下に血腫ができたりします
  • 強すぎると、その下を通っている血流まで止めてしまい、足に血が行かなくなります

添付文書にも、挿入部の出血は末梢側の血流を保ちながら、挿入部を直接圧迫して止める、と書かれています。

だから、圧迫している間こそ、足を見ます。押さえているのは医師でも、足を見ているのは看護師です。

Q4. 抜いたあと、看護師は何を見るのですか?

変わらず、患者さんの全身です。呼吸も、意識も、尿量も、これまでどおり見ていきます。

そのうえで、抜いたからこそ気をつけたいものを3つ挙げるなら、穿刺部、足、循環です。

① 穿刺部 ── 出血と、腫れ

にじんでいないか。ふくらんでいないか。触れて硬くなっていないか。

気をつけたいのは、血は下に回るということです。ガーゼの表面だけを見て「出ていない」と判断すると、シーツの下や体の脇に流れているのを見落とします。体の下側に手を差し入れて確かめるところまでが観察です。

② 足 ── 抜く前と比べる

  • 色(青白くないか、まだらになっていないか)
  • 温かさ(左右で違わないか)
  • 動脈が触れるか(膝の裏の膝窩動脈、足背動脈、後脛骨動脈。触れにくければドップラーで)
  • しびれ、痛み、動かしにくさ

ここで効いてくるのが、Q1で確かめておいた抜く直前の足です。「もともと触れにくい人」なのか「さっきまで触れていたのに触れなくなった」のかで、意味がまったく違います。

ガイドラインにも、抜去後は刺入部の止血と、末梢側に虚血がないことを確認する、と書かれています。添付文書には、抜去後に足の虚血が見られる場合は、血管の手術が必要になることもある、とあります。気づいたら、すぐ医師に伝えます。

③ 循環 ── 助けがなくなった分

IABPが担っていた分が、そのまま心臓に戻ってきます。

  • 血圧が下がってこないか
  • 胸の症状が出ていないか
  • 心電図が変わっていないか
  • 尿が出ているか

見ているものは、ウィーニングのときと同じです。ウィーニングで「減らした分を心臓が担えるか」を見ていたのなら、抜去は「全部を担えるか」を見ている、というだけの違いです。

Q5. 落ち着いてからのほうが、怖いこともあります

抜いた直後は、みんなが見ています。むしろ注意したいのは、その場が片づいたあとです。

仮性動脈瘤

抜いたあと、挿入したところに仮性動脈瘤ができることがあります(東海メディカルプロダクツの添付文書)。足の付け根の腫れ、いつもと違う痛み、皮下出血、しこりなどに気をつけます。

米国心臓病学会の解説では、ほかに、触れたときの振動(スリル)や、聴診での血管の雑音も手がかりに挙げられています。確定には超音波検査が使われる、とされています。気づいたら医師へ報告します。

後腹膜血腫 ── 見えないところに溜まる

いちばん見つけにくいのは、これだと思います。足の付け根から入れているので、出血がお腹の奥(後腹膜)へ広がることがあります。体の奥なので、穿刺部を見ているだけでは分かりにくい出血です。

心臓カテーテル検査で足の付け根の動脈を穿刺した約9,600件を調べた報告(1994年)では、後腹膜血腫は0.5%(45人)に起きていました。IABPの抜去に限った報告ではありませんが、挙げられているサインは次のとおりです。

  • 足の付け根より上(下腹部)を押すと痛い、張っている(45人全員)
  • 強い腰・背中の痛みや、下腹部の痛み(64%)
  • 足の付け根を通る神経(大腿神経)の症状(36%)

同じ報告では、手術が必要になった人の中に、点滴をしても上がらない血圧低下が早い時期に起きた人と、検査から24〜72時間たってから貧血(ヘマトクリット値の低下)が進んだ人がいました。

「穿刺部はきれいなのに、なぜか血圧が下がって、腰が痛いと言っている」。この組み合わせが出たら、見えないところで出ている可能性を思い出してください。サインがすべてそろうのを待たず、すぐ医師に伝えます。

安静が解除されたあとも、もう一度見る

圧迫が外れて、体を起こしたとき。初めて歩いたとき。そのあとにも、穿刺部をもう一度見ておきたいと思います。安静解除は「もう大丈夫」の合図ではなく、もう一度見るタイミングだと思っておくと安全です。

正直なところ、抜去のあとに大きなトラブルが起きることは、そう多くないと思います。多くは何ごともなく終わります。

ただ、起きるときはこの形で起きる。それを知っているかどうかで、気づける早さが変わります。

おわりに

抜去の日が、どういう日になるかは、患者さんによって違います。

心臓が力を取り戻して外せる日もあれば、これ以上は続けられないという判断で外す日もあります。同じ手技でも、そこにある意味は同じではありません。

ただ、どちらであっても、そのあとに続くことは変わりません。

モニターに出ていた augmentation の波は、もう出ません。IABPが数字で教えてくれていたものが、なくなります。

そのあとを見るのは、モニターと、人の目です。にじんでいないか。足は温かいか。さっきより元気がなくないか。

機械が外れたあとに残るのは、けっきょく、いつもの看護です。

ここまでの流れ ── いつ、どう減らしていくのかは、IABPのウィーニング|いつ、どう減らして、何を見るのかにまとめています。

入っている間に起こりうることは、IABPの合併症|なぜ起きるのか、どう気づくのかをどうぞ。

IABPそのものの仕組みや観察ポイントは、IABPの看護と観察項目|仕組み・合併症・トラブル対応をQ&Aで整理にまとめています。

止めたヘパリンがどれくらいで抜けるのか、いつ再開するのかは、補助循環中のヘパリン|なぜ使い、いつ止めて、いつ再開するのかにまとめています。

わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。

参考にした資料

※この記事は一般的な情報であり、個別の医療判断に代わるものではありません。抜去の手順、抗凝固の調整、圧迫止血の時間や安静度は施設によって異なります。必ず主治医・臨床工学技士・院内の基準にしたがってください。数値はいずれも参考値です。

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