ウィニングが順調に進むと、いよいよ「抜きましょう」という日が来ます。
ただ、抜去は「終わり」ではありません。
そして、見るところが変わるわけでもありません。看護師が見ているのは、入っている間も、抜いたあとも、患者さんの全身です。抜いたからといって、見る範囲が穿刺部だけに縮むわけではありません。
変わるのは、機械が教えてくれなくなることです。波形も、アラームも、もうありません。同じものを、こんどは自分の目で確かめにいくことになります。
Q1. 抜く前に、何を整えるのですか?
血が固まりにくい状態を、いったん戻します。
IABPが入っている間は、血栓ができないようにヘパリンを使っています。ですが、そのまま抜いてしまうと、当然ながら止まりません。太い動脈に開いた穴だからです。
そこで、ヘパリンを止めて、血が固まる力が戻ってくるのを待ちます。その目安に使われるのがACT(活性化凝固時間)で、200秒以下が一つの目安とされています。待っても下がりきらないときや、急いで抜きたいときは、プロタミンという薬でヘパリンの効果を打ち消すこともあります。
ただし、この数字も「どこまで待つか」も、施設によってかなり違います。院内の基準を確認してください。
看護師が整えておくこと
- ヘパリンをいつ止めたか、ACTがいくつかを把握しておく
- 圧迫止血に使うもの(ガーゼ、圧迫用の器具や固定材)をそろえておく
- 血圧が下がったときにどうするかを、あらかじめ医師と決めておく(すでに昇圧薬が入っていることが多いので、実際は流量の調整が中心になります)
- 抜く直前の足の状態を、あらためて確かめておく(色、温かさ、動脈が触れるか、左右差)
3つめは、物をそろえる話ではなく予測しておく話です。「下がったら、まず何をどうするのか」を先に決めておけると、そのとき慌てずに済みます。
最後のひとつは、あとで効いてきます。抜去後に足を見て「なんだか冷たい気がする」と思ったとき、比べる相手がないと判断できないからです。
Q2. どうやって抜くのですか?
抜去そのものは医師が行います。流れはこうです。
- 駆動を止める
- シリンジで陰圧をかけて、バルーンをできるだけしぼませる
- 抵抗がないことを確認しながら引いてくる
- シースごと抜く
ポイントは3番の「抵抗がないことを確認しながら」です。
バルーンがしぼみきっていないまま無理に引くと、血管を傷つけてしまいます。だから、しぼませてから、引っかかりがないかを確かめながら抜いていきます。
4番の「シースごと」も、少し意外に思われるところかもしれません。シースを残せるタイプもあるのですが、シースの中でバルーンが引っかかったり、シースが血栓を受け止めてしまったりするため、基本はシースごと抜くとされています。
なお文献には、抜いた直後に1〜2心拍分だけ出血させるという記載もあります。血栓が残っていた場合に足の先へ飛ばさないため、という理由です。ただしこれはどこでも行われている手技ではありません。実際にどうするかは施設と医師によります。
Q3. 止血は、どうするのですか?
医師が用手圧迫、つまり手で押さえて止めます。
時間の目安は、最低15分ほど手で押さえ、そのあと数時間(6時間程度)圧迫して固定しておくという進め方があります。ここも施設差が大きいところなので、院内の取り決めにしたがってください。
そして、この圧迫にはちょうどよさがあります。
- 弱すぎると、血がにじみ続けて血腫ができます。血腫の中に血液が流れ込むと、仮性動脈瘤になることがあります
- 強すぎると、その下を通っている血流まで止めてしまい、足に血が行かなくなります
だから、圧迫している間こそ、足を見ます。押さえているのは医師でも、足を見ているのは看護師です。
Q4. 抜いたあと、看護師は何を見るのですか?
変わらず、患者さんの全身です。呼吸も、意識も、尿量も、これまでどおり見ていきます。
そのうえで、抜いたからこそ気をつけたいものを3つ挙げるなら、穿刺部、足、循環です。
① 穿刺部 ── 出血と、腫れ
にじんでいないか。ふくらんでいないか。触れて硬くなっていないか。
気をつけたいのは、血は下に回るということです。ガーゼの表面だけを見て「出ていない」と判断すると、シーツの下や体の脇に流れているのを見落とします。体の下側に手を差し入れて確かめるところまでが観察です。
② 足 ── 抜く前と比べる
- 色(青白くないか、まだらになっていないか)
- 温かさ(左右で違わないか)
- 動脈が触れるか(足背動脈・後脛骨動脈。触れにくければドップラーで)
- しびれ、痛み、動かしにくさ
ここで効いてくるのが、Q1で確かめておいた抜く直前の足です。「もともと触れにくい人」なのか「さっきまで触れていたのに触れなくなった」のかで、意味がまったく違います。
③ 循環 ── 助けがなくなった分
IABPが担っていた分が、そのまま心臓に戻ってきます。
- 血圧が下がってこないか
- 胸の症状が出ていないか
- 心電図が変わっていないか
- 尿が出ているか
見ているものは、ウィニングのときと同じです。ウィニングで「減らした分を心臓が担えるか」を見ていたのなら、抜去は「全部を担えるか」を見ている、というだけの違いです。
Q5. 落ち着いてからのほうが、怖いこともあります
抜いた直後は、みんなが見ています。むしろ注意したいのは、その場が片づいたあとです。
仮性動脈瘤
穿刺部が拍動を打つようにふくらむ、押さえると痛い、聴診で雑音が聞こえる。こうしたときは仮性動脈瘤が疑われます。数日たってから気づかれることもあります。
後腹膜血腫 ── 見えないところに溜まる
これがいちばん見つけにくいものです。足の付け根から入れているので、出血がお腹の奥(後腹膜)へ広がることがあります。皮膚の上からは見えません。
サインは、こう出ます。
- 穿刺した側の腰や背中の痛み
- 説明のつかない血圧低下と、脈拍の上昇
- 採血で貧血が進んでいる
「穿刺部はきれいなのに、なぜか血圧が下がって、腰が痛いと言っている」。この組み合わせが出たら、見えないところで出ている可能性を思い出してください。確かめるにはCTが必要です。
安静が解除されたあとの、再出血
圧迫が外れて、体を起こしたとき。初めて歩いたとき。ここでまたにじみ始めることがあります。安静解除は「もう大丈夫」の合図ではなく、もう一度見るタイミングだと思っておくと安全です。
正直なところ、抜去のあとに大きなトラブルが起きることは、そう多くありません。多くは何ごともなく終わります。
ただ、起きるときはこの形で起きる。それを知っているかどうかで、気づける早さが変わります。
おわりに
抜去の日が、どういう日になるかは、患者さんによって違います。
心臓が力を取り戻して外せる日もあれば、これ以上は続けられないという判断で外す日もあります。同じ手技でも、そこにある意味は同じではありません。
ただ、どちらであっても、そのあとに続くことは変わりません。
モニターに出ていた augmentation の波は、もう出ません。数字で教えてくれていたものが、なくなります。
そのあとを見るのは、人の目です。にじんでいないか。足は温かいか。さっきより元気がなくないか。
機械が外れたあとに残るのは、けっきょく、いつもの看護です。
ここまでの流れ ── いつ、どう減らしていくのかは、IABPのウィニング|いつ、どう減らして、何を見るのかにまとめています。
入っている間に起こりうることは、IABPの合併症|なぜ起きるのか、どう気づくのかをどうぞ。
IABPそのものの仕組みや観察ポイントは、IABP看護Q&Aガイド|仕組み・観察・トラブル対応まとめにまとめています。
止めたヘパリンがどれくらいで抜けるのか、いつ再開するのかは、補助循環中のヘパリン|なぜ使い、いつ止めて、いつ再開するのかにまとめています。
わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。
※この記事は一般的な情報であり、個別の医療判断に代わるものではありません。抜去の手順、抗凝固の調整、圧迫止血の時間や安静度は施設によって異なります。必ず主治医・臨床工学技士・院内の基準にしたがってください。数値はいずれも参考値です。



