これまで3回、お金の制度について書いてきました。高額療養費、医療費控除、医療費の負担割合。
どれも「出ていくお金」の話です。
「仕事、どうなるんだろう」
「休んだら、給料は出ないですよね」
働き盛りの方が突然倒れて運ばれてきたとき、その方の頭にあるのは、入ってこなくなるお金のほうだったりします。
傷病手当金は、そこを支える制度です。これまでの3本すべてで名前だけは出てきましたが、中身にはふれてきませんでした。今回はここを書きます。
先に、全体を1枚にまとめました。スマホに保存して使ってください。

Q1. 傷病手当金とは、ひとことで言うと?
病気やけがで働けない間、健康保険から生活を支えるお金が出る制度です。
ここまでの3本とは、向きが逆になります。
- 高額療養費・医療費控除・負担割合 … 治療にかかる、出ていくお金を軽くする
- 傷病手当金 … 働けない間の、入ってくるお金を支える
だから、医療費控除の記事で書いたように、傷病手当金は医療費控除の計算で差し引きません。医療費そのものを補填するお金ではなく、暮らしを支えるお金だからです。
Q2. もらえる条件は、4つそろったときです
- 業務外の病気やけがで療養していること
- その仕事に就けない状態であること
- 連続する3日を含めて、4日以上仕事を休んだこと
- その間、給与が出ていないこと
③の「連続する3日」がいちばん間違えられるところなので、次のQ3でくわしく書きます。ここでは残りの3つにふれます。
① 業務外であること
仕事中や通勤中の病気・けがは、労災保険のほうです。傷病手当金は出ません。
前回の記事でも書いたところです。受傷の状況を最初に聞くのは看護師なので、ここは重なります。
② 働けない状態であること
全国健康保険協会は、「療養担当者の意見等を基に、被保険者の仕事の内容を考慮して判断」すると書いています。
つまり「その人の仕事に照らして」です。同じ病状でも、デスクワークの方と重い物を運ぶ方では判断が変わります。
④ 給与が出ていないこと
給与が出ている間は支給されません。ただし給与が傷病手当金より少ない場合は、その差額が支給されます。
Q3. いちばん間違えられるのが「待期3日」です
ここだけは、少していねいに書きます。
連続していないと、成立しません
最初の3日間は「待期」といって、支給されません。支給が始まるのは4日目からです。
そしてこの3日は、連続していなければ成立しません。途中で1日でも出勤すると、そこでリセットされて、数え直しになります。
有給も、土日も、日数に入ります
ここが誤解されやすいところです。
待期の3日には有給休暇も、土日・祝日などの公休日も含まれます。協会けんぽは「給与の支払いがあったかどうかは関係ありません」と明記しています。
つまり「有給を使ったから待期にならない」のではなく、休んでいれば日数として数えます。
Q4. いくら出るのか
1日あたりの金額は、こう決まります。
支給開始日以前の、続いた12か月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30 × 3分の2
ざっくり言えば、月給のおよそ3分の2です。
ここは期待とずれやすいところだと思います。全額は出ません。収入が3分の2になった状態で、治療費も払いながら暮らすことになります。
働き始めて1年たっていない場合
12か月分がそろわない方は、次の2つのうち低いほうで計算します。
- その方の、被保険者だった期間の標準報酬月額の平均
- 加入している保険者の全被保険者の平均(協会けんぽの場合、支給開始日が2025年4月1日以降なら32万円)
減ったり、出なくなったりする場合
- 出産手当金と重なる期間 … 出産手当金が優先されます(出産手当金のほうが少なければ差額)
- 同じ病気で障害厚生年金を受けている … 原則として支給されません(年金の日額=年額÷360 が傷病手当金の日額より低ければ、その差額)
- 退職後に老齢年金を受け始めた … 同じ考え方で、原則として支給されません
Q5. いつまで出るのか ── 通算で1年6か月
支給を始めた日から、通算して1年6か月です。
この「通算」という言葉が、実は大事です。
2022年1月に、数え方が変わりました
それ以前は、支給を始めた日から暦の上で1年6か月でした。途中で復職して働いていても、時計は進み続けていたのです。
いまは働いた日は日数に入りません。休んだ日だけを積み上げて、それが通算1年6か月に達するまで支給されます。
なぜ変わったのか
厚生労働省の資料に、はっきり書かれています。治療をしながら働き続ける方が増えたからです。
がんの治療は、再発や転移で休みが飛び飛びになります。古い数え方では、働こうとした人ほど損をする形になっていました。
協会けんぽの集計(2018年度)では、傷病手当金を受けた理由の約2割ががんでした。平均の支給期間は164日、精神疾患では212日です。長く休むことは、めずらしくありません。
Q6. 見落とされやすい3つ
① 国民健康保険には、原則ありません
これがいちばん大きいと思います。
傷病手当金は、会社員などが入る健康保険(被用者保険)の給付です。市区町村の国民健康保険では、国民健康保険法で「行うことができる」とされているだけの任意給付で、実際に行っている市区町村はまれです。
つまり自営業の方、フリーランスの方、農業の方は、休んでも入ってくるお金の当てがないということが起こります。
同じ病気で同じだけ休んでも、入っている保険で、その後の暮らしがまるで違います。
② 退職したあとも、続くことがあります
「辞めたら終わり」だと思っている方が多いところです。
次の2つを満たしていれば、退職後も引き続き受けられます。
- 退職日の前日までに、継続して1年以上被保険者だったこと
- 退職するときに、傷病手当金を受けている(または受けられる条件を満たしている)こと
ただし注意があります。退職後に任意継続に入った場合、そこで新しく発症した病気には支給されません。在職中から続いているものだけです。
③ 申請書は4枚あって、1枚は医師が書きます
ここは、看護師にいちばん近い話かもしれません。
- 1枚目・2枚目 … 本人が書く
- 3枚目 … 会社が書く
- 4枚目 … 療養担当者、つまり医師が書く
医師の記入が要るということは、受診のたびに書いてもらう流れになるということです。1か月分ずつ申請していくと、そのつど医師の記入が必要になります。
「先生に書いてもらう書類がある」と知っているだけで、外来の予約や、退院前の段取りの声かけが変わります。
Q7. 看護師が気づける場面は、3つあります
① 「仕事、どうしよう」と言われたとき
これが最大の場面です。
金額や条件を説明する必要はありません。「休んでいる間のお金の制度があります」と伝えて、ソーシャルワーカーにつなぐ。それで足ります。
② お仕事を聞いて、自営業だと分かったとき
傷病手当金がない可能性が高い方です。
代わりに使えるものがあるかどうかは、看護師が判断することではありません。ただ「この方は、休んだ分がそのまま収入の穴になる」と気づけるかどうかで、退院支援の相談のしかたが変わります。
③ 仕事中・通勤中のけがだったとき
こちらは労災です。傷病手当金ではありません。
前回の記事にも書きましたが、受傷の状況を最初に聞くのは看護師です。「お仕事中でしたか」の一言が、ここでも効いてきます。
そして、そこから先は渡します
その方が対象になるのか、いくらになるのか、いつまで出るのか。そこは看護師が答えるところではありません。
ソーシャルワーカー、会社の担当者、加入している保険者。「相談できる人がいます」と言えれば、それで役目は果たしています。
まとめ ── 覚えるのは4つでいい
- 働けない間の生活を支えるお金。治療費の制度ではない
- 最初の3日は出ない。連続していないと、数え直しになる
- およそ月給の3分の2が、通算1年6か月まで
- 国民健康保険には、原則ない
この4本を書いてきて、いま思うことがあります。
わたしたちは、目の前の患者さんの体のことはよく見ています。呼吸の変化にも、顔色にも気づきます。
でも、その方がどんな保険に入っていて、休んだ分がどうなるのか。同じ病気で同じだけ入院しても、そのあとの暮らしはまったく違います。
全部を知る必要はないと思います。ただ、「その心配には、相談できる人がいます」と言えるかどうか。
それは、いちばんそばにいる看護師にしかできないことなのだと思います。
わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。
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参考にした資料
- 傷病手当金(全国健康保険協会)── 支給の4条件、待期3日の考え方、支給額の計算、通算1年6か月、退職後の継続給付
- 病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)(全国健康保険協会)── 12か月に満たない場合の平均額、出産手当金・老齢年金との調整
- 任意継続被保険者の保険給付(全国健康保険協会)── 任意継続では新たな傷病に支給されないこと
- 令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます(厚生労働省)── 通算化の内容
- 傷病手当金について(第127回社会保障審議会医療保険部会 資料1)(厚生労働省)── 疾病別の構成割合、平均支給期間、通算化の背景
- 健康保険傷病手当金支給申請書(全国健康保険協会)── 申請書の構成(被保険者・事業主・療養担当者)
※この記事は、看護師が制度の存在に気づくための一般的な情報です。金額・期間・対象になるかどうかは、必ず加入している保険者(協会けんぽ・健康保険組合・共済組合など)や、医療機関のソーシャルワーカーにご確認ください。健康保険組合や共済組合では、独自の上乗せ給付がある場合や、計算の分母が異なる場合があります。国民健康保険の傷病手当金の有無は、お住まいの市区町村にご確認ください。記載の内容は2026年8月時点のものです。



