朝の採血結果を開くと、LDHがじわりと上がっている。ふと尿バッグに目をやると、いつもより色が濃い気がする——。
「これって、溶血?」
アラーム対応早見表で予告した「パージ圧上昇の先にある話」を、今回はいつもの質問形式で深掘りします。
【はじめにお断り】本記事は一般的な情報を整理したものです。検査の基準値や対応の手順は施設によって異なります。実際の判断は必ず自施設のプロトコルと医師の指示に従ってください。
Q1. そもそも、なぜインペラで溶血が起こる?
インペラは、超小型のポンプを毎分数万回転という速さで回して血液を送り出す機械です。血液にとっては、それだけで負担のかかる環境——つまり、赤血球が壊れる(溶血する)リスクは、装着している限り常にゼロではありません。
そのうえで、溶血が悪化しやすくなる条件があります。
- カテーテルの位置ずれ:吸込み口が壁に近づき、血液が無理な流れ方をする
- サクションの繰り返し:強い陰圧がかかるたびに赤血球が壊れやすくなる
- 高いサポートレベル:回転数が上がるほど、血球への負担も増える
つまり溶血は、ある日突然起こるものではなく、位置・サクション・サポートレベルという「機械からのSOS」の積み重ねの先にあります。だからこそ、日々の観察で拾えるのです。
Q2. ベッドサイドで最初に気づけるサインは?
一番早く、目で見えるサインは尿の色です。
壊れた赤血球から漏れ出したヘモグロビンが尿に出ると、ワインレッド〜赤褐色の、いわゆるヘモグロビン尿になります。
ここでのコツは、「一回の色」ではなく「変化」を見ること。
- 前の勤務帯と比べて、色が濃くなっていないか
- 時間ごとの尿を見て、だんだん赤みが増していないか
- あわせて、サクションアラームの頻度が増えていないか
「なんとなく濃い気がする」——その違和感は、記録と申し送りで言葉にする価値があります。

「溶血尿」と「血尿」は違う
同じ「赤い尿」でも、溶血によるヘモグロビン尿と、血尿はまったく別ものです。ここを取り違えると、報告も対応もずれてしまいます。

| ヘモグロビン尿(溶血) | 血尿 | |
|---|---|---|
| 正体 | 壊れた赤血球から出たヘモグロビン(色素) | 赤血球そのもの |
| 色 | ワインレッド〜赤褐色 | 赤〜ピンク、鮮血のことも |
| 見た目 | 透明感のある「澄んだ赤」 | 濁ることがある |
| 置いておくと | 沈殿しにくい(均一なまま) | 赤血球が沈殿することがある |
| 尿潜血反応 | 陽性(試験紙では区別できない) | 陽性 |
| 尿沈渣(顕微鏡) | 赤血球はほとんど見えない | 赤血球が見える |
ポイントは、尿の試験紙(潜血反応)はどちらも陽性になること。区別は顕微鏡(尿沈渣)で「赤血球が見えるかどうか」でつきます。インペラ装着中に赤い尿を見たら、まず溶血を疑って機械のサインと採血をセットで確認し、血尿の可能性(膀胱留置カテーテルによる損傷など)も念頭に置いて報告してください。
Q3. 採血データはどこを見る?
溶血を裏づけるのは採血データです。「どの項目が、なぜ動くのか」をセットで覚えると忘れません。
| 項目 | 溶血だと | なぜ |
|---|---|---|
| 遊離ヘモグロビン | ↑ | 壊れた赤血球の中身が血中に漏れ出す |
| LDH | ↑ | 赤血球が壊れると放出される酵素 |
| ハプトグロビン | ↓ | 遊離ヘモグロビンと結合して消費される |
| カリウム | ↑ | 赤血球の中はカリウムが豊富 |
| Hb(ヘモグロビン) | ↓ | 赤血球そのものが減っていく |
| 間接ビリルビン | ↑ | ヘモグロビンの分解産物が増える |
数値の基準は施設の検査基準に従ってください。大事なのは単発の値より、トレンド(推移)です。
Q4. 溶血のサインが出たら、何を確認して報告する?
報告の前に、ベッドサイドで揃えておくものがあります。
- 尿の色:いつから、どのくらい変化したか
- 機械のサイン:サクションアラームの頻度、パージ圧の推移、カテーテルのマーカー深さ
- 採血データ:直近の推移
この3つを揃えて報告すると、その後の動きが早くなります。
報告後の対応は、一般的に次の流れで進みます(いずれも医師・臨床工学技士とともに)。
- カテーテル位置の確認:マーカー深さ、エコーでの先端位置
- 許容できる範囲でサポートレベルを下げる:回転数を下げて血球への負担を減らす
- それでも続くなら、他の原因も検索:溶血のすべてが機械のせいとは限らない
このときも、尿量のチェックは続けてください。溶血で漏れ出したヘモグロビンは腎臓に負担をかけるからです。
Q5. 放っておくとどうなる?
溶血を放置すると、行き着く先は主に2つです。
- 急性腎障害(AKI):遊離ヘモグロビンが腎臓を傷つけ、尿量低下・腎機能悪化につながる
- 貧血の進行:赤血球が壊れ続ければ輸血が必要になり、場合によってはデバイスの入れ替えや抜去の判断にもつながる
AKIが始まっているサイン
腎臓への影響は、こんな形で見えてきます。
- 尿量の減少:目安として0.5mL/kg/時を下回る状態が続く(体重50kgなら約25mL/時)。時間ごとの尿量トレンドで見る
- 採血データ:クレアチニン(Cr)↑・BUN↑・eGFR↓
- カリウムの二重上昇に注意:溶血由来のK上昇に腎障害由来のK上昇が重なると、不整脈のリスクが上がります
AKIには国際的な診断基準(KDIGO)があります。「クレアチニンの上昇」か「尿量の低下」のどちらかを満たせばAKIと診断されます。看護師が毎時間チェックしている尿量が、そのまま診断の指標になっているのがポイントです。
| ステージ | クレアチニン(Cr) | 尿量 |
|---|---|---|
| 1 | 基礎値の1.5〜1.9倍、または0.3mg/dL以上の上昇 | 0.5mL/kg/時未満が6〜12時間続く |
| 2 | 基礎値の2.0〜2.9倍 | 0.5mL/kg/時未満が12時間以上続く |
| 3 | 基礎値の3.0倍以上、または4.0mg/dL以上、または透析開始 | 0.3mL/kg/時未満が24時間以上、または12時間以上の無尿 |
細かい数字を暗記する必要はありません。大切なのは、「尿量が0.5mL/kg/時を割り込む時間が続いていないか」を早い段階で拾うこと。ステージ1の尿量低下は6時間で基準に届きます。夜勤帯なら、一晩見ているうちに満たしてしまう長さです。
溶血の観察は、尿の「色」と「量」をセットで。色が濃くなってきたら、量の推移も必ず一緒に追ってください。
逆に言えば、看護師が「尿の色」の段階で拾えれば、位置調整やサポートレベルの調整だけで済むことも多い。溶血は、早期発見がそのまま患者さんの腎臓と血液を守ることにつながります。
まとめ
- 溶血は「突然」ではなく、位置・サクション・高サポートの積み重ねの先にある
- 最初のサインは尿の色。「一回の色」より「変化」を見る
- 報告は「尿の色+採血+機械のサイン」の3点セットで
- 早期発見が、腎臓と血液を守る
サクションの深掘りはサクションアラーム編、アラーム全体の対応はアラーム対応早見表へ。シリーズ全体はインペラ看護Q&A完全ガイドにまとめています。
参考文献
- 臨床工学技士会系解説「Impella(インペラ)の特徴と管理・看護のポイント」
- 看護roo!「循環補助用心内留置型ポンプカテーテル挿入患者の看護」
- 東京都健康長寿医療センター「インペラ(IMPELLA)の解説」
- 日本医科器械学会誌「経皮的補助循環用ポンプカテーテルの概要および臨床における使用状況」
- AKI(急性腎障害)診療ガイドライン作成委員会(日本腎臓学会・日本集中治療医学会ほか)「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」(AKIの診断はKDIGO基準を採用)
- PMDA「IMPELLA補助循環用ポンプカテーテル 添付文書」



