IABPが入っている患者さんを、はじめて受け持つとき。
モニターにいつもと違う波形が並んでいて、ベッドの横で機械が規則正しく動いている。何を見ればいいのか、何に気をつければいいのか。最初は、それすら分からないと思います。
この記事では、IABPの基本をQ&Aで整理します。仕組みが分かると、見るべきところも変わってきます。
Q1. IABPとは、何をしている機械ですか?
大動脈の中で、バルーン(風船)を膨らませたり、しぼませたりしている機械です。
正式には大動脈内バルーンパンピング(Intra-Aortic Balloon Pumping)といいます。30〜40mLほどのバルーンがついたカテーテルを胸部下行大動脈に入れ、心臓の拍動に合わせて拡張と収縮を繰り返します。
ここで、ひとつ大事なことがあります。
IABPは、心臓に代わって血液を送り出す機械ではありません。
インペラやECMOは、ポンプが血液そのものを汲み出して送ります。でもIABPは、血液を送るのではなく、大動脈の中の圧を変えることで心臓を助けています。
だから「圧補助」と呼ばれます。自分の心臓が動いていることが前提の装置です。
Q2. なぜ効くのですか?
そもそも、なぜ拡張期なのか
ここが、IABPを理解するうえでいちばん大事なところだと思います。
体の多くの臓器は、心臓が収縮して血液を押し出すとき——つまり収縮期に、血流を受け取ります。
でも、冠動脈は違います。
冠動脈の血流は、その大部分が拡張期に流れます。
理由は、冠動脈が心筋の中を走っているからです。心臓が収縮するとき、心筋そのものが冠動脈を締めつけます。だから収縮期には流れにくく、心筋がゆるむ拡張期になって、ようやく流れる。
とくに左冠動脈は、心筋の厚い左室を走るので、この傾向が強くなります。右冠動脈は右室の心筋が薄いぶん、収縮期にもある程度流れているといわれています。
心臓は、全身に血液を送り出しているのに、自分自身が血液を受け取るのは、休んでいる間だけ。
だから、IABPは拡張期に膨らむのです。
1つめ:拡張期増強
心臓の拡張期に、バルーンが膨らみます。
大動脈の中で急に風船が膨らむので、拡張期の圧が上がります。すると、拡張期に流れている冠動脈の血流が増えます。
つまり、心筋に届く酸素が増えます。
2つめ:後負荷軽減
心臓が収縮する直前に、バルーンが一気にしぼみます。
大動脈の中が急に広くなるので、圧がすとんと下がります。左室は、低い圧に向かって血液を押し出せばよくなります。
つまり、心臓の負担が減り、心筋が使う酸素が減ります。
酸素を増やして、消費を減らす。
この2つが同時に起こるのが、IABPです。
そして、この効果はタイミングで決まります。膨らませるのは大動脈弁が閉じるとき(動脈圧波形のディクロティックノッチ)、しぼませるのは収縮期の直前。
タイミングがずれると効果が減るだけでなく、かえって心臓の負担を増やしてしまうこともあります。波形とタイミングの詳しい話は、別の記事にまとめる予定です。

Q3. なぜヘリウムガスを使うのですか?
理由は2つあります。
ひとつは、軽いからです。
ヘリウムは水素の次に軽い気体で、ガスが移動するときの抵抗が少なく、応答が速いという特徴があります。IABPは心拍に合わせて瞬時に膨らんだりしぼんだりする必要があるので、この速さが要ります。
(水素はもっと軽いのですが、爆発の危険があるため使われません)
もうひとつは、万一のときの安全性です。
ヘリウムは血液に溶けにくいため、バルーンが破れても血液中の物質と反応しにくいとされています。
ただし、溶けにくいということは、体内に入ったときにそのまま残るということでもあります。バルーンの破裂には注意が必要です。
Q4. どこに入っているのですか?
バルーンの先端が、左鎖骨下動脈から約2cm下の胸部下行大動脈に来るように留置します。バルーンの下端は、腎動脈より上です。
X線透視や経食道エコーで確認しながら入れ、留置後もX線写真で位置を確認します。
なぜ位置がそこまで大事なのか。
理由は2つあります。ひとつは、十分な効果を得るため。もうひとつは、合併症を防ぐためです。
大動脈からは、あちこちに血管が枝分かれしています。バルーンの位置が上にずれれば弓部の分枝を、下にずれれば腹部の分枝を塞いでしまう可能性があります。
数センチの世界です。
Q5. なぜベッドアップは30度までなのですか?
IABPが入っていても、一般的には15〜30度までのベッドアップは可能とされています(施設や医師の指示によります)。
でも、なぜ30度までなのでしょうか。
ベッドアップをすると、カテーテルの先端の位置がずれるといわれています。
Q4で書いたとおり、IABPは留置位置がとても重要です。上にずれれば弓部の分枝を、下にずれれば腹部の分枝を塞ぐ可能性があります。だから、角度に制限があります。
一方で、ずっとフラットのままにもできません。誤嚥や無気肺のリスクが高くなるからです。
だから「上げてはいけない」ではなく、「どこまでなら上げていいかを確認する」のが正しい向き合い方なのだと思います。
「決まりだから30度まで」と覚えるのと、「先端が動くから30度まで」と理解しているのとでは、ケアの丁寧さが変わってきます。
Q6. 看護師は、何を見ればいいですか?
見るところは、患者さん側と機械側の両方にあります。
下肢虚血
いちばん見逃したくないものです。太い管が動脈に入っているので、その先の血流が悪くなることがあります。
- 足背動脈、後脛骨動脈の拍動
- 冷感、色、しびれ、痛み
- 左右差
ここで手がかりになるのが、左右差です。
循環不全そのものが原因なら、症状は両足に出ます。でもIABPによる下肢虚血なら、挿入している側だけが悪くなります。
「両足とも冷たい」のと「挿入側だけ冷たい」のとでは、意味が違います。左右を比べることが、原因を見分ける手がかりになります。
血行障害が出た場合は、早期の抜去や、他の部位からの挿入を検討することになります。
出血・貧血・血小板減少
IABP中は血小板や赤血球が減ることがあります。さらに抗凝固も行うため、出血しやすい状態です。
抗凝固の目安について、メーカーが定めた推奨値はありません。ACTを150秒前後で管理している施設が多いようですが、施設のマニュアルに従ってください。
バルーンの破裂
石灰化した血管との接触や、バルーンの折れ曲がりで起こることがあります。
見つけ方は2つあります。
ひとつは、カテーテル内への血液の混入です。チューブに血液が見えたら、それは緊急です。
もうひとつは、波形です。バルーンの内圧波形に異常が出ることで気づかれることもあります。
どちらにしても、すぐに医師を呼びます。速やかな抜去と再挿入が必要になります。
刺入部と回路
感染の兆候。屈曲やねじれ。接続部のゆるみや外れ。
体位を変えるときや清潔ケアの前後は、位置がずれていないか、人手を確保して確認しながら行います。
波形
心電図、動脈圧波形、バルーンの駆動圧波形。タイミングが合っているか、効果が出ているか。ここは別の記事で詳しく書きます。
Q7. どう離脱していくのですか?
心臓が回復してくると、機械の助けを減らしていきます。
方法は2つあります。
ひとつは、補助比率を下げる方法です。1心拍に1回だった補助を、2心拍に1回にする(1:1から1:2へ)というように減らしていきます。
もうひとつは、バルーンのガス容量を下げる方法です。
離脱を考えるときの目安として、こんな数字があります。
- 収縮期圧が90mmHg以上
- 肺動脈楔入圧が20mmHg未満
- 心係数が2.2L/分/m²以上
- 尿量が30mL/時以上
- 不整脈が消えている
- 心不全が落ち着いている
ただし、これらは参考値です。実際は症例や施設の基準によって変わります。
そして、ここが看護師の出番です。
離脱の途中で胸痛が出たり、心電図に変化が出たりしたときは、心筋虚血を疑います。その場合はウィニングを中止して、補助比率を元に戻します。
減らしていく過程を、いちばん近くで見ているのは看護師です。
おわりに
IABPは、心臓に代わって血液を送る機械ではありません。
大動脈の中の圧を変えることで、心筋に届く酸素を増やし、心臓が使う酸素を減らしている。
そしてその働きは、「心臓は、自分が休んでいる間にしか血液を受け取れない」という体のつくりの上に成り立っています。
そこが分かると、なぜ拡張期なのか、なぜ位置が大事なのか、なぜ体位に制限があるのかが、つながって見えてきます。
適応と禁忌、波形とタイミングの読み方、合併症、抜去のときの看護。細かい部分は、これから1つずつ記事にしていく予定です。
あわせて読みたい:IABPとインペラ(Impella)の違い|初めて担当する看護師の10の疑問
わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。
※この記事は一般的な情報であり、個別の医療判断に代わるものではありません。実際の管理は、必ず主治医・指導者・院内の基準にしたがってください。数値はいずれも参考値であり、施設の基準を優先してください。


