「ECMOが入っているのに、さらにインペラも入れるんですか?」
初めてエクペラの患者さんを受け持つとき、多くの人がそう思うのではないでしょうか。ただでさえ管理が大変なVA-ECMOに、もう一つ機械が加わる。なぜ、そこまでするのか。
その理由がわかると、何を見ればいいのかもはっきりしてきます。この記事では、エクペラの全体像をQ&Aで整理します。
Q1. エクペラ(ECPELLA)とは何ですか?
VA-ECMOとインペラ(Impella)を、同時に使う方法のことです。
ECMO + Impella で「ECPELLA(エクペラ)」。文献では「ECMELLA(エクメラ)」と書かれていることもありますが、同じものを指しています。
2つの役割は、はっきり分かれています。
- VA-ECMO:体の外で血液に酸素を渡し、全身に血液を送る(全身の循環と酸素化を担う)
- インペラ:左室の中から血液を汲み出して、上行大動脈へ送る(心臓そのものの負担を減らす)
「全身を支える係」と「心臓を休ませる係」。この2つを組み合わせているのがエクペラです。
Q2. どんな病態が対象になるのですか?
ひとことで言うと、「回復する見込みのある心臓が、いま止まりかけている」ときです。
代表的なのは次の3つです。
① 急性心筋梗塞(ACS)による心原性ショック
冠動脈が詰まって、ポンプとしての力が急に失われた状態です。とくに左主幹部など広い範囲が障害されると、血圧が保てず心停止に至ることもあります。心原性ショックを伴うACSは、エクペラが選ばれる代表的な場面です。
② 劇症型心筋炎
ウイルスなどをきっかけに心筋が急激に炎症を起こし、数日のうちに心臓が動かなくなる病態です。ここはエクペラがとくに期待されている領域で、救命率の向上が報告されています。心筋炎は炎症が治まれば心臓が戻ってくることが多いため、「診断がついて、治療が効いてくるまでの時間を稼ぐ」という使い方がぴたりとはまります。
③ 心停止後(ECPR)
心肺停止に対してVA-ECMOを導入したあと、心臓の動きがすぐには戻らず、左室が張ってきてしまう場合です。
3つに共通しているのは、「今を乗り切れば、心臓が回復するかもしれない」という点です。
エクペラは、心臓を治す機械ではありません。心臓が自分の力で回復するまでの、時間を稼ぐ橋渡し(bridge to recovery)です。
だから、受け持つときに一度確認しておきたいことがあります。
——この患者さんの心臓は、いま何を待っているのか。
再灌流の効果を待っているのか、炎症が引くのを待っているのか。それがわかると、毎日の観察の意味も変わってくると思います。
インペラを単独で使う場合の適応は、インペラ(Impella)の適応とはにまとめています。
Q3. なぜECMOだけでは足りないのですか?
ここが、エクペラを理解するうえでいちばん大事なところです。
VA-ECMOには、強力な反面、ひとつの弱点があります。
大腿から入れるVA-ECMOは、大動脈のなかを逆向きに(逆行性に)血液を流します。全身には血液が回りますが、その流れは、弱った左室が血液を押し出すときの抵抗になります。つまり、後負荷が増えるのです。
すると、どうなるか。
左室は血液を押し出せなくなり、中に血液が溜まって張ってきます(左室拡張)。大動脈弁も開きにくくなり、左心のなかで血液が停滞します。
そこから、こんなことが起こります。
- 肺水腫 … 高くなった左房の圧が肺の血管に伝わり、肺がうっ血する
- 心筋の酸素消費が増える … 張った心筋は、それだけで多くの酸素を使う。虚血がさらに進む
- 心臓のなかに血栓ができる … 停滞した血液は固まりやすい
- 治りにくい不整脈が出る
つまり——助けているつもりのECMOの逆行性の血流が、かえって心臓の負担になってしまう。心臓を休ませて回復させたいのに、逆に回復を妨げてしまうことがある。これがVA-ECMO単独の弱点です。
この弱点を打ち消すために、インペラを足す。それがエクペラの理由です。

Q4. インペラは、そこで何をしているのですか?
インペラは、左室の中から血液を吸い出して、上行大動脈へ順行性に送り出します。
左室に溜まっていた血液が汲み出されるので、左室の中の圧と容量が下がります。これを「左室アンローディング(荷下ろし)」と呼びます。
その結果、こう変わります。
- 左室が小さくなり、張りがとれる
- 肺のうっ血が改善する(肺動脈楔入圧の低下)
- 心筋の酸素消費が減り、心筋が休める
- 血液が動くので、血栓ができにくくなる
エクペラは、「しっかり循環を支えながら、同時に心臓の負担も減らす」という、単独ではできない組み合わせなのです。実際に、エクペラのほうがECMO単独より生存率が高く、ECMOから離脱できる割合も高かった、という報告があります。
Q5. 看護師は、何を見ればいいですか?
見るところは大きく分けて4つです。
① 左室が張ってきていないか(エクペラで最重要)
インペラが十分に荷下ろしできているか、という視点です。
- 動脈圧波形 … 波形が平坦になっていないか。脈圧が小さいほど、自分の心臓が押し出せていないサインです
- 心エコー … 大動脈弁が開いているか、左室が大きくなっていないか、心臓のなかに「もやもやエコー」が出ていないか(血栓のサイン)
- 肺水腫の所見 … 泡沫状の痰、酸素化の悪化、胸部X線
② インペラ側
位置がずれていないか、波形、そして溶血のサイン(尿の色・採血データ)。
③ ECMO側
送血・脱血の状態、そして下肢の虚血。送血側の足の色・温度・脈は、必ず見ます。
④ 両方に共通するもの
出血です。エクペラは、ECMO単独に比べて出血や溶血が起こりやすいことが知られています。強力なサポートの代償として、そこは避けられません。刺入部、ドレーン、消化管、そして採血データを、いつも以上に注意して見ていきます。
ECMOとインペラ、2つを同時に見ていくことになります。エクペラの受け持ちで一番大変なのは、ここだと思います。
Q6. いつ始めて、どう離脱していくのですか?
始めるタイミングは、早いほうがよいとされています。左室が張ってしまってから慌てて足すのではなく、早い段階でアンローディングしたほうが予後がよかったという報告があります。「左室が張る前に、先手を打つ」という考え方です。
離脱は、心機能の回復に合わせてサポート量を下げていきます。多くの場合、先にECMOを離脱し、インペラを残して様子を見るという流れになります(施設や症例によって考え方は異なります)。
心臓が自分の力を取り戻すにつれて、機械の助けを少しずつ減らしていく。その過程を、そばで見ていけるのは、この治療に関わる看護師の役目だと思っています。
おわりに
エクペラは、「ECMOの弱点をインペラが補う」という、理屈がわかるとすっきり見えてくる治療です。
ECMOは全身を支え、インペラは心臓を休ませる。
この一文が腑に落ちると、モニターの前で何を見ればいいかが変わってきます。
そして忘れたくないのは、この機械が稼いでいるのは時間だということ。その時間のあいだに、患者さんの心臓が戻ってくるのを待っています。
細かい部分(アンローディングの詳しい理屈、観察ポイントの深掘り、合併症、離脱の実際)は、これから1つずつ記事にしていく予定です。
※この記事は一般的な情報であり、個別の医療判断に代わるものではありません。実際の管理は、必ず主治医・指導者・院内の基準にしたがってください。


