看護師が知っておきたい高額療養費|限度額適用認定証と、2026年8月の変更点

記事「看護師が知っておきたい高額療養費|限度額適用認定証と、2026年8月の変更点」のアイキャッチ画像。窓から光が差し込む明るい病院の相談室に、木のテーブルと向かい合わせの椅子が置かれ、テーブルの上には無地の書類の束とペン、開いたファイル、観葉植物がある。窓の外には緑。左側に「看護師が知っておきたい制度」「高額療養費」「患者さんの『お金が心配』に、気づけるように」の文字。右下にブログのキャラクターである象が座っている。 🌿医療制度・お金のこと

「治療に集中してほしい」

看護師なら、たぶん誰もが思っていることです。体のこと以外で、患者さんに不安を抱えていてほしくない。

でも、実際にはそうもいきません。

その人が家庭の中で担っている役割があります。家計を支えている人もいれば、家族の世話をしている人もいる。病気になったからといって、その事情は消えません。

集中治療室にいると、こんな言葉を聞くことがあります。

「ここ、高いんでしょう。早く病棟に戻りたい」
「もう退院できませんか」

体はまだ回復していないのに、費用が気になって、そう口にする方がいます。

治療費は、患者さんにとって想像のつかないものです。いくらかかるのか分からないまま、日数だけが積み上がっていく。分からないから、よけいに怖い。

だからこそ、その不安を軽くする関わりも、大事な看護なのだと思います。

日々のケアの中で、看護師にお金の不安を打ち明けてくださる患者さんもいます。その声を受け止め、事務やソーシャルワーカーと一緒に考えることも、大切な関わりだと思います。

この記事は、看護師が最低限知っておきたいことに絞りました。制度に詳しくなる必要はありません。「気づいて、つなぐ」ために必要なところだけです。

先に、全体を1枚にまとめました。スマホに保存して使ってください。

高額療養費の早見表。マイナ保険証では認定証は原則不要。資格確認書での必要書類は年齢・所得区分・記載内容により異なる。月額・年間上限の表は70歳未満、2026年8月〜2027年7月。年間上限を超えた対象額は保険者から払い戻され、窓口の支払いが自動停止するわけではない。所定の低所得の課税区分は年間41万円となり2027年8月以降に払い戻し。食事代・差額ベッド代は対象外。

※この図は保存して使えます(スマホは長押し、パソコンは右クリック)。手元に入れておくと、必要なときにすぐ開けます。

Q1. 高額療養費制度とは、ひとことで言うと?

保険診療の自己負担に、月ごとの上限がある制度です。

上限を超えた分は、あとから戻ってきます。この上限は、年齢や所得区分などによって決まります。

たとえば70歳未満で年収約370万〜770万円に相当する区分の方が、保険診療の総医療費100万円の治療を受けた場合、月の自己負担限度額は92,940円です。計算は85,800円+(1,000,000円−286,000円)×1%。食事代や差額ベッド代などは別にかかります。

手術をして1か月入院すれば、医療費そのものは何百万円にもなります。でも、保険診療の対象となる自己負担は、制度の適用により限度額までに抑えられます。ここが伝わるだけでも、患者さんの表情は変わります。

Q2. マイナ保険証を使う場合、認定証は原則不要です

マイナ保険証は、健康保険証として使う登録をしたマイナンバーカードです。

マイナ保険証を使い、病院が限度額の情報を確認できれば、認定証は原則不要です。窓口での保険診療の支払いを限度額までに抑えられます。

ただし、資格確認書で受診する場合や、限度額の情報を確認できない場合などは、別の手続きが必要になることがあります。複数の医療機関の費用を合算する場合も、あとから申請が必要なことがあります。

看護師が確認したいのは、「何を使って受診するか」「限度額の適用や食事代の減額について相談できているか」です。必要な書類は、医事課や加入する健康保険の窓口に確認します。

Q3. 2026年8月から、上限が変わりました

上限額は、年齢や所得の区分によって異なります。2026年8月から月の上限額などが変わり、年間の上限も設けられました。古い金額をそのまま伝えず、現在の区分を医事課や保険者に確認します。

長く治療を続ける方には、繰り返し高額になった場合の軽減や、年間の上限が関係することもあります。看護師が区分や金額を暗記する必要はありません。

詳しい上限額・年間上限を確認したい方へ

2026年8月診療分からの変更です。ここを知らないと、古い金額を伝えてしまいます。

月の上限(70歳未満)

年収の目安これまで2026年8月から
約1,160万円〜252,600円+1%270,300円+1%
約770万〜約1,160万円167,400円+1%179,100円+1%
約370万〜約770万円80,100円+1%85,800円+1%
〜約370万円57,600円61,500円
住民税非課税35,400円36,900円

表の「+1%」は、医療費が一定額を超えた分の1%が上乗せされるという意味です。年収約370万〜770万円の区分なら、正確には「85,800円+(医療費−286,000円)×1%」。ここでいう医療費は、患者さんの支払額ではなく、保険診療の総額(10割)です。医療費が高くなるほど、上限も上がります。

収入が高い区分ほど、上がり幅も大きくなっています。「みんな一律に上がった」わけではありません。

多数回該当は、据え置きです

直近12か月で高額療養費に該当した月が3か月以上あると、4か月目からは上限がさらに下がります。保険者が変わった場合など、回数を引き継げないことがあります。これを「多数回該当」といいます。

今回の見直しでも、この金額は変わっていません。長く治療を続けている方の負担を増やさないためです。

新しくできた「年間上限」

今回の見直しで、いちばん新しいのがこれです。

従来の月単位の上限に加え、幅広い所得区分を対象とした年間上限が設けられました。なお、70歳以上の一般区分には、以前から外来の年間上限がありました。

8月から翌年7月までの1年間の、計算対象となる自己負担額が年間上限を超えた場合、超えた分について保険者から払い戻しを受けられます。上限に達した時点で窓口の支払いが自動的になくなる、という意味ではありません。協会けんぽでは、この年間上限の申請は2027年8月から開始すると案内しています。

年収の目安多数回該当(据え置き)年間上限(新設)
約1,160万円〜140,100円168万円
約770万〜約1,160万円93,000円111万円
約370万〜約770万円44,400円53万円
〜約370万円44,400円53万円
所定の低所得の課税区分は41万円(下記参照)
住民税非課税24,600円29万円

誰に効くのか

年間上限41万円となる場合もあります。年収換算約200万円以下に相当する所定の課税区分(70歳未満の健保では標準報酬月額15万円以下、国保では旧ただし書所得86万円以下)と確認された方には、年間上限41万円が適用され、2027年8月以降に払い戻されます。年収は目安であり、実際の区分は保険者に確認します。

多数回該当は、「上限に達した回数」で数えます。だから、毎月そこそこ医療費がかかっていても、月の上限に届かない方は、多数回該当による軽減を受けられません。

年間上限は、そういう方に効きます。回数ではなく、年間の計算対象となる自己負担の合計で見るからです。

厚生労働省は、こんな試算を出しています。

  • これまで多数回該当にならなかった方:年間57.3万円 → 53.0万円(約4.3万円の負担減)
  • 極めて高額な医療を受けた方:年間76.7万円 → 53.0万円(約23.7万円の負担減)

月の上限は上がったけれど、1年を通してみると軽くなる方もいる。ここまで知っていると、「負担が増えたんですよね」と言われたときに、もう一歩の話ができます。

70歳以上の方は、表が別です

ここまでの表は、70歳未満のものです。70歳以上には、別の表があります。

しかも70歳以上には、70歳未満にはない仕組みがあります。「外来だけの上限」です。

入院と外来を合わせた世帯ごとの上限とは別に、外来だけを個人ごとに見た上限が決められていて、こちらのほうがずっと低くなっています。通院を続ける方の負担が重くならないようにするためです。

2026年8月から、こちらも変わりました

区分外来だけの上限(個人ごと)月の上限(世帯ごと)
一般(年収〜約370万円)18,000円 → 22,000円57,600円 → 61,500円
住民税非課税8,000円 → 11,000円24,600円 → 25,700円
住民税非課税(所得が一定以下)8,000円(据え置き)15,000円 → 15,700円

年収が約370万円以上の「現役並み所得」にあたる方は、70歳未満と同じ表を使います。外来だけの上限もありません。

外来にも、年間の上限があります

外来だけの上限には、月とは別に年単位の上限もついています。

  • 一般(年収〜約370万円)… 年間14万4千円 → 21万6千円
  • 住民税非課税 … 年間9万6千円(新しく設けられました)

住民税非課税の方は、月の上限が8,000円から11,000円に上がりました。でも年間の上限が新しく入ったので、毎月上限まで使っている方の1年分の負担は、これまでと変わりません。

なお、一般区分の外来の月額上限は2027年8月から28,000円になる予定です。低所得区分まで一律に28,000円になるわけではありません。

なお、2027年8月からは所得の区分がさらに細かく分かれる予定です。今の5区分が13区分になります。

Q4. これは対象になりません ── ここを間違えないこと

高額療養費は、保険がきく医療費にだけ効きます。

次のものは対象外です。上限とは別にかかります。

  • 差額ベッド代(個室代など)
  • 入院中の食事代
  • 先進医療の技術料など、保険のきかない費用(併用する保険診療部分は対象になり得ます)

ここを説明せずに「上限までしかかかりませんよ」と言ってしまうと、請求書を見た患者さんが驚くことになります。個室を希望された場面では、必ずこの話が要ります。

月単位の計算は、1日から末日までの暦月ごとです。同じ病院でも入院・外来、医科・歯科は分けて計算しますが、条件を満たせば合算できます。70歳未満は原則、各計算単位の自己負担が21,000円以上のもの、70歳以上はすべての自己負担が合算対象です。処方薬の調剤費は、処方せんを出した医療機関の自己負担と合算して計算します。

月をまたぐ入院では、それぞれの月で計算します。医療費のかかり方によっては、同じ月に収まる場合より自己負担が増えることがありますが、必ず両月とも上限額を支払うわけではありません。家族分の合算も、単に同居している家族ではなく、医療保険上の世帯で考えます。協会けんぽでは、被保険者とその被扶養者が一つの世帯です。細かい計算は看護師の仕事ではありませんが、「月をまたぐと変わる」ことだけ知っていれば、相談につなげられます。

Q5. 医療費控除は、税金の制度です

高額療養費は健康保険、医療費控除は税金の制度です。手続きの窓口も異なります。

高額療養費と医療費控除の違いをまとめた図。高額療養費は健康保険の制度で申請先は保険者(協会けんぽ・健保組合・市区町村)、月ごと(1日〜末日)の区切りで、上限を超えた分が戻る。医療費控除は税金(所得税)の制度で申請先は税務署(確定申告)、1年ごと(1月1日〜12月31日)の区切りで、所得から差し引かれ税金が減る。注意として、両制度は併用できるが、高額療養費で戻った分は医療費控除の計算から差し引く。同じ費用でも扱いが違い、入院中の食事代は高額療養費では対象外だが医療費控除では対象、差額ベッド代(本人の希望による個室)はどちらも対象外。医療費控除は1年間に払った医療費が10万円を超えた分が対象で、総所得金額等が200万円未満の方は所得の5%を超えた分。申告する人が生計を一にする家族のために支払った分も合算できる。1年分の領収書はとっておくこと。

両方の制度を使えますが、医療費控除では、高額療養費などで補われた額を、その対象となった医療費から差し引いて計算します。高額療養費には、月だけでなく年間の上限もあります。

入院中の食事代など、二つの制度で扱いが異なる費用もあります。「領収書は年ごとにまとめておくと、相談に役立ちます」と伝え、詳しくは医療費控除の記事や税務署の案内につなぎます。

Q6. 看護師が動ける場面は、3つあります

① 「お金が心配で」と言われたとき

「そうですよね」と不安を受け止めたうえで、「費用のことを相談できる窓口があります。一緒に確認しましょう」と伝えて、ソーシャルワーカーにつなぎます。その後、相談できたか、不安が残っていないかも確かめたいと思います。

相談できる窓口があること自体を、知らない方もいます。

② 入院が決まったとき

マイナ保険証を持っているか。持っていなければ、認定証の申請が要るかもしれません。手続きには時間がかかるので、入院前に気づけるかどうかが分かれ目になります。

③ 個室や特別な治療の希望が出たとき

Q4の話をする場面です。「これは高額療養費の対象外です」と一言添えられるかどうかで、あとの納得が変わります。

まとめ ── 覚えるのは5つでいい

  1. 保険診療の自己負担には月ごとの上限がある(年齢・所得区分などで決まる)
  2. マイナ保険証を利用できれば、認定証は原則不要(必要な申請は保険者や所得区分によって確認する)
  3. 差額ベッド代と食事代は、対象外
  4. 「心配です」と言われたら、ソーシャルワーカーへつなぐ
  5. 1年分の領収書はとっておく(医療費控除は税務署へ。別の制度)

制度のすべてを詳しく説明したり、その場で金額を計算したりする必要はありません。まずは困りごとを聞き、相談に必要な情報を整理します。

まずは、「使える制度があるか、一緒に確認しましょう」と伝える。そこから、費用の見通しを立てるための相談につなげられます。

わたし自身、ずっと医療者でありながら、ここを曖昧にしてきました。調べてみて、知らないままでいるのはもったいないと思いました。

患者さんの心配ごとの中で、体のことと同じくらい大きいのが、お金のことです。そこに気づける立場にいるのが、いちばんそばにいる看護師なのだと思います。

わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。

「入院費のことで気になっていることはありますか。使える制度があるか、一緒に確認しましょう」。費用の不安を話せるきっかけを、日々のケアの中につくっていきたいと思います。
こうした不安を受け止める対話については、患者との雑談は看護になる|何気ない対話にある意味にも書いています。

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参考にした資料

※この記事は、看護師が制度の存在に気づくための一般的な情報です。個別の金額や手続きについては、必ず加入している保険者(協会けんぽ・健康保険組合・市区町村など)や、医療機関のソーシャルワーカー・医事課にご確認ください。上限額は年収区分・年齢・世帯の状況によって異なり、記載の金額は2026年8月〜2027年7月のものです。年収の目安は、条件によって変わります。