夜勤の途中、ラインとコードを整理しながら、ふと考えることがあります。
この機械は、これからどうなっていくんだろう、と。
この記事は、そんな「勝手に語る 未来への願い」です。
実際に進んでいる研究の話と、私が現場で「こうなったらいいのに」と思っていることが混ざっています。未来の予測というより、願いも含んだ話として読んでください。
機械が、自分を見張るようになる
補助循環はすでに、自分の状態を自分で監視する方向に進んでいます。
ポンプがどこにあるのか。圧はどうか。波形はどう変化しているか。
以前は人が目で追っていたものを、機械が自分で監視し、おかしな変化があれば知らせてくれる。今使っている機器にも、すでにその仕組みの一部は入っています。
ここから先、こうなったらいいなと思うことがあります。
アラームが、ただ「異常です」と知らせるのではなく、「何が起きている可能性が高いのか」まで教えてくれることです。
もっと言うなら、その患者さんの異常です。このアラームが示すのは機械の中の原因ではなくて、この患者さんなら……というように。
今はアラームが鳴ってから、私たちが原因を探しにいきます。
位置なのか。循環血液量なのか。不整脈なのか。右心不全なのか。回路やポンプの問題なのか。
その判断は、看護師の腕の見せどころでもあります。
看護師が判断って思いますか。ベッドサイドにいるのは看護師です。そして、そのアラームに最初に接触するのも看護師ですよね。その内容を医師へどう伝えるかで結果はかわる、時間の経過も変わる、そう思います。
けれど正直に言えば、機械がそこまで教えてくれるなら、そのほうがいいと思っています。
考えなくていいのではなく、私たちが数値の番人でいる時間が減れば、その分の手と目を、患者さんの側に回せるからです。
線が、消えてほしい
これは、私にとって永遠の願いです。
植込型の補助人工心臓には、体内のポンプと体外のコントローラーや電源をつなぐドライブラインがあります。
このドライブラインは皮膚を貫いて体外へ出ているため、出口部から細菌が入り、感染を起こすことがあります。
ドライブライン感染は、この治療が抱える大きな課題のひとつです。
皮膚を貫くものがある限り、感染の危険はついて回ります。補助人工心臓が、心臓移植に代わる長期的な治療になっていくためにも、避けて通れない課題なのだと思います。
そこで研究されているのが、皮膚を貫くケーブルを使わず、体外から体内へ電力を送る仕組みです。
東北大学では、磁力を利用してワイヤレスで駆動する、補助人工心臓用の小型ポンプが研究されています。
線が消えたら、何が変わるのか。
これは、実際に線を扱っている人にしか分からない話かもしれません。
現場の線の多さは、驚くほどの危険もあります。
コードとラインを整理することは、立派な看護のひとつです。
どこを通すか。どこで固定するか。体位を変えるときにどう動かすか。
絡まないように。引っ張られないように。抜けないように。
この整理ができるかどうかで、患者さんの安全は大きく変わります。
そして患者さんの側には、「機械につながれている」という感覚があります。
線が一本減るだけで、体位変換も、清拭も、リハビリも、搬送も変わります。
ワイヤレスというと、技術の話に聞こえるかもしれません。
でも現場から見れば、それは「患者さんが自由になる」という話です。
血液を、傷つけないでいられたら
補助循環には、出血、血栓、溶血といった合併症がついて回ります。
これらは、それぞれ別の合併症です。原因も一つではありません。
ただ、その背景をたどっていくと、機械が血液に触れ、機械の中を血液が流れているという共通点があります。
血栓を防ぐために抗凝固薬を使えば、出血の危険が高まります。ポンプの中で血液に強い力がかかれば、血球が壊れます。反対に、流れが滞る場所があれば、血栓ができやすくなります。
補助循環は、その狭い間を通り続けています。
循環の本体は心臓で、血液は運ばれる側だと思いがちです。
でも血液は、ただ運ばれている液体ではありません。血球や血小板、凝固因子などを含む、患者さんの体の一部です。
機械が扱っているのは、単なる液体ではないのだと思います。
だからこそ、血液が触れる表面の材料やコーティング、ポンプ内の流れを改良し、血栓や溶血を減らそうとする研究が進んでいます。
強い力がかかれば血球が傷つき、流れが淀めば血栓ができる。
血液を壊さず、滞らせず、必要な流量を生み出す。そのために、ポンプの形や回転の仕方、血液が触れる表面の材料が研究されています。
もし、今よりも血液を傷つけにくい補助循環ができたら。
それは「溶血が減る」というだけの話ではありません。
抗凝固管理の考え方が変わり、出血や血栓への警戒が少し軽くなる可能性があります。補助循環を装着した患者さんの治療やケアの選択肢も、今より広がるかもしれません。
運べる補助循環になってほしい
補助循環中の患者さんをCTへ連れていくだけでも、一大事になることがあります。
人を集め、ラインを整え、機械を運び、移動中に何か起きた場合の準備をする。
そこまでしても安全に移動できないと判断され、必要な検査を見送ることもあります。そして検査ができないことが、診断や治療の選択肢を狭める場合もあります。
だから私は、補助循環がもっと小さく、軽く、運びやすくなってほしいと思っています。
線が減ること。電源の制約が減ること。機械が患者さんの変化を予測してくれること。血液を傷つけにくくなること。
そうした技術はすべて、「患者さんを動かせる」という未来につながっていくはずです。
運べる補助循環。
血液を傷つけにくい補助循環。
私の願いは、たぶんこの二つに集まっていきます。
心臓を治すのか、置き換えるのか
もっと先の未来を見ると、正反対に見える二つの道があります。
ひとつは、心臓を治す道です。
2026年、iPS細胞から作られた心筋細胞シート「リハート」が、条件及び期限付きで承認されました。
他人の細胞から作製したiPS細胞を心筋細胞へ変化させ、シート状にして心臓の表面へ移植する治療です。対象は、標準治療で十分な効果が得られない、虚血性心筋症による重症心不全です。
承認審査で評価された8人では、全員にNYHA心機能分類の改善が認められました。
一方で、症例数が少なく、比較対象を置かない試験だったことなどから、有効性の評価には限界もあります。そのため、承認後も有効性と安全性を確認していくことが条件になっています。
もうひとつは、心臓を置き換える道です。
チタン製の全置換型人工心臓「BiVACOR」が、2024年に初めて人へ移植されました。
磁気浮上する一つの回転体によって、全身と肺の両方へ血液を送り出す構造です。まだ臨床研究の段階ですが、心臓そのものを機械に置き換えるという方向も、少しずつ現実に近づいています。
遺伝子を改変したブタの心臓を人に移植する、異種移植の試みも続いています。
治すのか。置き換えるのか。
補助循環は、そのどちらでもありません。
補助循環がしているのは、時間を稼ぐことです。
心臓が自分の力を取り戻すまで。次の治療へ進めるようになるまで。移植できる心臓が見つかるまで。
その時間を、機械が支えています。
だとすれば、心臓を治す技術が進んだとき、補助循環はどうなるのでしょうか。
役目を終えるのかもしれません。
あるいは、治療の効果が現れるまでの時間を守るものとして、これまで以上に必要になるのかもしれません。
私は、後者ではないかと思っています。
治す技術が進むほど、「治るまでの時間」を守る仕事の価値は、上がるはずだからです。
それでも、変わらないもの
機械は、これからも良くなっていくと思います。
小さくなり、賢くなり、線が減り、血液を傷つけにくくなる。
そのたびに、看護師の手のかかり方も変わっていくでしょう。
それでも、変わらないものがあります。
線が消えても、患者さんの不安まで消えるわけではありません。
機械がどれだけ賢くなっても、「この先どうなるんだろう」と思う気持ちまで、機械が引き受けてくれるわけではありません。
つながれているのは、機械ではなく、人です。
そして、わたしの看護の基盤となる考え方に、機械は患者さんの身体の一部だということ。だから、機械を理解し、機械を大事に扱う、命をつないでいる大事なものです。
これから先、もっと機械が良くなることを願いながら、そのぶん空いた手で何を見るのかを、考えていたいと思っています。
技術が私たちの仕事を減らすとしたら、それは看護が要らなくなるということではありません。
看護が、もっと人のほうを向けるようになる。
そういうことなのだと思います。
わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。
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※この記事には、実際に進められている研究や治療の情報と、筆者個人の想像や願いが含まれています。特定の治療や医療機器の有効性・安全性を保証するものではなく、個別の医療判断に代わるものではありません。



