「この患者さん、インペラの適応ってどうなんだろう?」——そう思ったこと、ありませんか。
適応や禁忌を判断するのは医師です。でも看護師が禁忌を知っておくと、観察の視点が変わり、リスクに先に気づけるようになります。今回はそういう記事です。
【はじめにお断り】インペラの適応・禁忌の判断は医師が行います。本記事は看護師が理解を深めるための一般的な情報で、判断基準そのものではありません。禁忌は機種(2.5/CP/5.5)や適正使用指針の改訂で変わる場合があります。実際は自施設の運用と最新の指針・添付文書に従ってください。
Q1. そもそも「禁忌」とは?「慎重投与」とどう違う?
言葉の整理から始めます。
- 禁忌:使ってはいけない条件。使うと重大な害が予想される
- 慎重投与(相対的禁忌):リスクを承知したうえで、慎重に検討して使うことがある条件
どちらも判断するのは医師です。看護師がこれを覚える意味は、適応を決めるためではありません。「なぜこの患者には使えないのか」を理解しておくと、その理由がそのまま観察のポイントになる——ここが看護師にとっての価値です。
Q2. インペラが「使えない」代表的な3つの条件
適正使用指針で禁忌として示されているのが、次の3つです。単に覚えるのではなく、「なぜダメなのか」まで理解すると忘れませんし、観察にもつながります。

① 機械弁(大動脈弁置換術後)
インペラは、カテーテルを大動脈弁を越えて左室内に留置する機械です。ポンプ部分が弁をまたいで座る構造になっています。
ところが機械弁は、金属やパイロライトカーボンでできた硬い人工の弁。ここにカテーテルを通そうとすると——
- そもそもカテーテルが通過できない(生体弁と違い、開放の仕方や構造が硬い)
- 無理に通せば弁の機構(リーフレットやディスク)を傷つけるおそれがある
- 弁とカテーテルが干渉して弁がきちんと閉じなくなる危険もある
人工弁そのものが壊れれば命に関わるため、機械弁は使えません。なお生体弁の場合は状況によって使えることもあり、ここは機械弁と区別して考えられます(最終判断は医師)。
禁忌なのは機械弁です。生体弁は素材が柔らかく、カテーテルが通過できることがあるため、機械弁とは分けて考えられます。「弁膜症で手術待機中の橋渡し」としてインペラが使われる例もあります。ただし弁の状態・位置は一人ひとり違うので、可否は必ず医師が個別に判断します。
② 中等度以上の大動脈弁逆流(AR)
インペラは、左室から血液を吸い込み、大動脈へ送り出すポンプです。左室の代わりに血液を全身へ押し出してあげるのが役割。
ところが大動脈弁逆流(AR)が中等度以上あると、せっかく大動脈へ送り出した血液が、逆流して左室へ戻ってきてしまいます。
- 送っては戻り、また送っては戻り……という「空回り」の状態になる
- 全身(前方)へ届く血液が増えず、補助循環としての効果が得られない
- それどころか、逆流で左室に負担がかかり、肺うっ血を悪化させることもある
「ポンプは回っているのに、体は良くならない」——これでは意味がないどころか害になる。だから中等度以上のARは禁忌です。
③ 左室内血栓
インペラのポンプは、左室の中で高速で血液を吸い込んでいます。
もし左室の中に血栓(血のかたまり)があると——
- ポンプが血栓を吸い込んで巻き込み、そのまま大動脈へ送り出してしまう
- 飛んだ血栓は脳梗塞・全身の塞栓症を引き起こす
- いったん飛べば、防ぎようがなく重大な後遺症につながる
「血栓を全身にばらまくポンプ」になってしまうため、左室内血栓がある場合は使えません。だからこそ挿入前の心エコーでの血栓確認がとても重要になります。
なお、挿入後もポンプは血液に負担をかけ続けます。赤血球が壊れる溶血のサイン(尿の色・採血データ)は、装着中ずっと見ていく観察ポイントです。
Q3. 「注意が必要」な血管・全身の条件
禁忌ほど絶対的ではないけれど、慎重な検討が必要になる条件もあります(判断は医師)。
- 大動脈解離・大動脈瘤:カテーテルが通る大動脈そのものにリスクがある
- 高度な末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)・血管の強い蛇行:挿入が難しく、下肢虚血のリスクも高い
- 出血リスクが高い状態:インペラは抗凝固(ヘパリン)が必須。PMDAも重篤な出血への注意を呼びかけています
こうした条件の患者さんほど、挿入後は下肢の血流・穿刺部の出血を厚く観察する、という視点につながります。
もう一段深く:抗凝固そのものが使えない人(HIT)
「抗凝固が必須」ということは、裏を返せばその抗凝固薬が使えない人には大きな壁になるということです。代表がHIT(ヘパリン起因性血小板減少症)。ヘパリンによって逆に血小板が減り、血栓ができてしまう病態です。
HITでは、2つの別々の場所でヘパリンの代わりを考えます。ここを混同しないのが大事です。
- ① 全身の抗凝固(点滴などで体全体):ヘパリンからアルガトロバン(直接トロンビン阻害薬)などへ変更
- ② パージ液(ポンプ内を守る灌流液):重炭酸ナトリウム(重曹)ベースのパージ液に変更
見落としやすいのが②です。パージ液は通常「ヘパリン加ブドウ糖」ですが、ヘパリンが使えない人ではこれも変える必要があります。ここで大事なのは、パージ液には直接トロンビン阻害薬(アルガトロバン・ビバリルジン)を使わないこと——ビバリルジンをパージに使うとパージ流量低下・パージ圧上昇が報告されており、パージには不向きです。だからパージのヘパリンフリー選択肢は重炭酸ナトリウムになります(米国FDAが2022年に承認、日本でも長期管理の症例報告あり)。
全身の抗凝固=アルガトロバン/パージ液=重炭酸ナトリウム。「同じヘパリンの代わり」でも場所によって薬が違う、というのがHIT×インペラの要点です(選択はいずれも医師)。
看護のポイント:インペラ管理中に血小板数が急に下がるのはHITのサインかもしれません。パージ系のトラブルや血栓イベントと合わせて見逃さないこと。そして「今この患者のパージ液は何ベースか(ヘパリンか重炭酸か)」を把握しておくと、パージのアラーム対応早見表とあわせて確認しておくと、いざという時に動けます。「抗凝固ができるか」は、禁忌・慎重を考えるうえで見えにくいけれど大事な軸です。
体格・血管径という現実的な壁
指針の禁忌には出てきませんが、現場では体格や血管の太さも無視できません。インペラのカテーテルはそれなりの太さがあるため、血管径が細い人(小柄な方など)では挿入経路が確保しにくく、下肢虚血のリスクも上がります。機種(2.5/CP/5.5でカテーテル径が異なる)の選択にも関わる部分で、ここも医師・CEが体格や血管の評価をふまえて判断します。
Q4. インペラが「効きにくい」ケース
禁忌とは別に、「向いていない」場合もあります。
インペラは左心を助ける装置です。だから右心不全が主体のショック(肺塞栓など)には効果が乏しくなります。左心を助けても、右心が血液を肺へ送れなければ、そもそも左室に血液が返ってこないからです。

こういうケースでは、IABPやVA-ECMO、あるいはECMOとインペラの併用(エクペラ)など、別の補助が検討されます。補助循環にはそれぞれ得意・不得意があり、患者さんの病態に合わせて選ばれます(IABPとインペラの違いもあわせてどうぞ)。
Q5. 禁忌を知っていると、看護はどう変わる?
ここがこの記事の主役です。禁忌の知識は、そのまま「リスクの地図」になります。
- 挿入前:心エコーの所見(弁の種類・AR・左室内血栓)に自然と目が向くようになる
- 挿入後:禁忌や注意条件に近い患者さんほど、塞栓・下肢虚血・出血の観察を厚くする
- チームの中で:「なぜこの患者にこの機械なのか」を理解していると、医師やCEとの会話が変わる
禁忌を知ることは、適応を判断するためではなく、目の前の患者さんの「起こりうるリスク」を先読みするため。それが看護師が禁忌を学ぶいちばんの意味だと思います。
☐ 心エコー所見:弁の種類(機械弁か)・大動脈弁逆流の程度・左室内血栓の有無
☐ 下肢の評価:動脈触知・色・冷感を挿入前に左右差で記録(挿入後の比較基準になる)
☐ 抗凝固まわり:抗凝固の指示、HITの既往、直近の血小板数
☐ 血管・体格:末梢動脈疾患・大動脈の状態、体格や血管径の情報
☐ 病態の軸:左心不全が主体か、右心不全の要素はないか
まとめ
- 禁忌の判断は医師。看護師が知る意味は「理由を理解して観察につなげる」こと
- 使えない3条件:機械弁 / 中等度以上のAR / 左室内血栓——それぞれ「通れない」「空回り」「血栓を飛ばす」
- 注意が必要な条件は、そのまま下肢虚血・出血の観察ポイントになる
- 右心不全主体には効きにくい——補助循環は病態で使い分けられる
シリーズ全体はインペラ看護Q&A完全ガイドにまとめています。
参考文献
- 補助人工心臓治療関連学会協議会「IMPELLA適正使用指針」(禁忌の大元。最新の改訂版でご確認ください)
- 長崎大学病院 循環器内科「心原性ショックに対する補助循環装置 IMPELLA(インペラ)とは」
- PMDA「IMPELLA補助循環用ポンプカテーテル 添付文書」
- Journal of Artificial Organs「Usefulness of bicarbonate-based Impella purge solution in a patient with heparin-induced thrombocytopenia(HIT患者への重炭酸ナトリウムパージ液の使用・日本の症例報告)」
- 日本心不全学会・PMDA「IMPELLA使用による重篤出血への注意喚起(2022年3月)」


