「血圧が下がってきました」と報告するとき、その血圧がなぜ下がったのかまで考えられているでしょうか。
血液が減ったのか、心臓が弱ったのか、血管が広がったのか。理由によって、見るところも、医師が選ぶ治療も変わります。
その「なぜ」を考えるときの物差しになるのが、心拍出量を決める前負荷・後負荷・心拍数・心収縮力の4つの因子です。この記事では、この4つで循環を整理します。循環の記事は、これからこの物差しでつないでいきます。
※生理学の基本は標準的な生理学の教科書(OpenStax『Anatomy and Physiology 2e』)と循環生理の教科書の著者による解説(Klabunde『Cardiovascular Physiology Concepts』)、臨床の部分は日本循環器学会のガイドライン(心不全診療ガイドライン2025年、補助循環のガイドライン2023年)と添付文書をもとにしています。
看護学生の方や、まず基本だけ知りたい方に向けて、やさしく説明した記事もあります:前負荷・後負荷をわかりやすく|看護学生のための循環のきほん
Q1. 循環は、何のためにあるのですか?
全身の組織に、酸素と栄養を届けるためです。
教科書では、ショックを「組織の代謝を保つのに十分な酸素や栄養を届けるだけの血流を、循環が保てなくなった状態」と説明しています。心原性ショックも、ガイドラインでは「心拍出量の減少により組織低灌流、臓器障害をきたした状態」とされています。
だから循環を見るときのゴールは、血圧の数字そのものではなく、組織に血液が届いているかだと思います。血圧は、そのための手がかりのひとつです。
Q2. 心拍出量とは何ですか?
心臓が1分間に送り出す血液の量です。
教科書では、心拍出量は次のかけ算で表されます。
心拍出量 = 1回拍出量 × 心拍数
1回拍出量は、心室が1回の収縮で送り出す血液の量です。安静時の目安として、1回拍出量はおよそ70mL、心拍数はおよそ75回/分、心拍出量は平均5.25L/分(4.0〜8.0L/分)と書かれています。これは左右の心室それぞれの値です。
このかけ算から分かるのは、心拍出量を変えるものは「1回にどれだけ送るか」と「1分間に何回送るか」の2つだけ、ということです。
Q3. 心拍出量を決める4つの因子とは?
前負荷・後負荷・心拍数・心収縮力の4つです。
心拍出量は「1回拍出量×心拍数」でした。教科書では、そのうちの1回拍出量を決めるおもな要素として、前負荷・心収縮力・後負荷の3つが挙げられています。これに心拍数を加えた4つが、心拍出量を決める因子です。

① 前負荷 ── 収縮する前に、どれだけ引き伸ばされているか
前負荷は、収縮する直前に、心室の筋肉がどれだけ引き伸ばされているかを表します。筋肉の伸び具合は直接は測れないので、心室にたまっている血液の量(拡張末期容積)や圧が、その目安として使われます。
教科書では、生理的な範囲では、心室の筋肉は引き伸ばされるほど強く収縮し、1回拍出量が増える、と説明されています(フランク・スターリングの法則)。戻ってくる血液が少なければ、心室は十分に満たされず、送り出せる量も減ります。
② 後負荷 ── 血液を送り出すときに乗り越える負担
後負荷は、心室が血液を送り出すときに乗り越えなければならない負担です。左心室の後負荷は大動脈の圧と深く関係していて、大動脈の圧や血管の抵抗が高いとき、大動脈弁が狭くなって開きにくいとき(狭窄)に大きくなる、とされています。
③ 心拍数 ── 1分間に何回送るか
心拍出量は1回拍出量×心拍数なので、心拍数が増えれば、心拍出量は増える方向に働きます。
ただ、教科書には、心臓が速く拍動するほど、心室に血液がたまる時間が短くなり、前負荷が下がると書かれています。しばらくは心収縮力を上げて補えても、続くと補いきれなくなる、とされています。また、心室を満たす血液のうち、最後の20〜30%は心房の収縮で送り込まれている、とも書かれています。
反対に、心拍数が遅すぎれば、1回拍出量が同じでも心拍出量は減ります。心拍数は「多いほどよい」ではなく、ちょうどよい範囲がある因子だと思います。

④ 心収縮力 ── 心臓の筋肉が縮む力そのもの
心収縮力は、心臓の筋肉が縮む力の強さです。強く縮むほど1回拍出量は増え、収縮のあとに心室に残る血液は少なくなります。前負荷とのちがいは、同じだけ引き伸ばされていても、どれだけ強く縮めるかという点です。
交感神経の刺激(アドレナリン、ノルアドレナリン)は、心収縮力を強めるとされています。
| 因子 | ひとことで言うと | 増えると・強くなると |
|---|---|---|
| 前負荷 | 収縮の直前の、心室の筋肉の引き伸ばされ具合(心室にたまった血液の量が目安) | 生理的な範囲では、1回拍出量は増える |
| 後負荷 | 血液を送り出すときに乗り越える負担(大動脈の圧、血管の抵抗など) | 1回拍出量は減る方向に働く |
| 心拍数 | 1分間に何回送るか | 心拍出量は増える方向に働く。ただし速すぎると、たまる時間が短くなり前負荷が下がる |
| 心収縮力 | 心臓の筋肉が縮む力 | 1回拍出量は増える |
Q4. 血圧とは、どういう関係ですか?
教科書には、血流 = 圧の差 ÷ 抵抗という関係が示されています。言いかえると、血圧は、心臓が送り出す血液の量(心拍出量)と、血管の抵抗の両方で決まります。
教科書では、心拍数や1回拍出量を上げて心拍出量を増やすものは、血圧を上げ、血流を促す、とされています。血管の抵抗は、おもに細い動脈(細動脈)の太さで決まり、血管の半径が少し変わるだけで抵抗は大きく変わる(半径の4乗に反比例する)、と説明されています。
「血圧が保たれている」=「足りている」ではない
血圧は、心拍出量が下がっても、血管を締めて抵抗を上げることで、しばらく保たれることがあります。ガイドラインにも、血圧は血管収縮反射により保たれている場合があるので、数値は絶対的なものではなく、臓器の低灌流の所見とあわせて評価する、と書かれています。教科書でも、ショックの患者さんで血圧が正常に保たれていることがある、とされています。

平均血圧と脈圧
- 平均血圧:組織に血液を送り込む「平均の力」。おおよそ「拡張期血圧+脈圧÷3」。教科書では、60mmHgを下回る状態が長く続くと、組織に十分な血液が届かなくなる、とされています
- 脈圧:収縮期血圧と拡張期血圧の差。教科書では、1回拍出量が少ないと脈圧は小さくなり、心不全、大動脈弁狭窄、大量の出血などでみられる、とされています
血圧の4つの数字や、血圧が下がると体の中で何が起こるのかは、血圧の見方|収縮期・拡張期・平均血圧・脈圧から循環を読むにくわしくまとめました。
Q5. 治療や補助循環は、4つのどこに効いているのですか?
ここが、この物差しのいちばん便利なところだと思います。薬も機械も、4つのどこかに働きかけています。
| 因子 | 薬・治療(例) | 補助循環との関係 |
|---|---|---|
| 前負荷 | 血管拡張薬は、静脈を広げて前負荷を軽くする。NPPV(非侵襲的陽圧換気)も、心臓に戻る血液を減らして前負荷を軽くする(胸の中の陽圧で後負荷も軽くする) | インペラは、左室の中から血液を吸い出し、左室の圧と容量を下げる |
| 後負荷 | 血管拡張薬は、動脈を広げて後負荷を軽くする。ノルアドレナリンは、末梢の血管の抵抗を上げて平均血圧を上げるが、後負荷も増やす | IABPは、心臓が収縮するときにバルーンをしぼませ、後負荷を軽くする。VA-ECMOは、大動脈を逆向きに流れる血流が、後負荷を増やす |
| 心拍数 | 速すぎ・遅すぎを整える | IABPは心拍に合わせて動くため、心拍数が速すぎるとバルーンが十分にふくらまない可能性がある、と書いている添付文書がある |
| 心収縮力 | 強心薬(ドブタミン、PDEIII阻害薬など)は、心拍出量を増やし、組織への血流を改善する目的で使われる | ─ |
たとえばノルアドレナリンについて、ガイドラインには、末梢の血管の抵抗を上げて平均血圧を上げる一方で、後負荷の増大や心筋の酸素消費量の増加をきたし、腎臓・脳・内臓の血流も減らすので、強心薬としての単独使用は控え、できるだけ少量・短期間で使う、と書かれています。血圧が上がっても、心臓にとって楽になったとは限らない、ということだと思います。
補助循環の記事も、この見方で読むとつながって見えてきます。
- IABPと後負荷:IABPの看護と観察項目|仕組み・合併症・トラブル対応をQ&Aで整理
- VA-ECMOが後負荷を増やすこと、インペラで左室の負担を減らすこと:ECPELLA(エクペラ)とは|VA-ECMOとインペラを併用する理由を看護師目線で
- IABPとインペラの違い:IABPとインペラ(Impella)の違い|初めて担当する看護師の10の疑問
- 心臓のポンプとしての力を数字で見る:インペラ(Impella)のCPOとは|数値の見方と看護アセスメント
Q6. 看護師は、この4つをどう使うのですか?
血圧が下がった、尿が減った、手足が冷たい。そんなときに、「4つの因子のどれが崩れたのか」を考える手がかりにできると思います。
教科書では、ショックを次のように分けています。4つの因子と重ねると、こう見えてきます。
| ショックの種類(教科書の分け方) | おもな原因(例) | 4つの因子で見ると |
|---|---|---|
| 循環血液量減少性ショック | 大人ではおもに出血(子どもでは、ひどい嘔吐や下痢による体液の喪失も)、広い範囲の熱傷など | 血液そのものが減り、心臓に戻る血液が減る → 前負荷が下がる |
| 心原性ショック | 心筋梗塞が最も多い。不整脈、弁膜症、心筋症など | 心臓が心拍出量を保てない → 心収縮力(不整脈では心拍数) |
| 血管性ショック | 敗血症、アナフィラキシー、脊髄・脳の損傷(神経原性) | 細い動脈の緊張がゆるみ、大きく広がる → 血管の抵抗が下がる |
| 閉塞性ショック | 心タンポナーデ、肺塞栓 | 心タンポナーデ:心臓のまわりにたまった液体に外から押されて、心臓が十分に広がれず、ためられる血液が減る → 前負荷が下がる 肺塞栓:肺の動脈がふさがり、右心室の後負荷が上がる |

もちろん、原因を判断するのは医師で、実際にはいくつもの要素が重なっています。それでも、「血圧が下がった」だけでなく、「脈が速く、手足が冷たく、尿が減っている」と一緒に伝えられると、なぜ下がったのかを考える材料が増えます。4つの物差しは、そのための整理の道具だと思います。
おわりに
循環は、むずかしく見えます。数字も、薬も、機械も多いからです。
でも、どれも結局は「1回にどれだけ送るか」と「1分間に何回送るか」、そして「組織に届いているか」の話です。
前負荷・後負荷・心拍数・心収縮力。この4つを物差しにすると、モニターの数字や、始まった薬の意味が、少しずつつながって見えてくると思います。
わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。
参考にした資料
- OpenStax『Anatomy and Physiology 2e』19.1 Heart Anatomy(Rice University)── 心タンポナーデ(心臓を包む袋にたまった液体が心臓を押し、十分に広がれなくなる)
- 同 19.4 Cardiac Physiology ── 心拍出量=1回拍出量×心拍数、安静時の目安、前負荷・後負荷・心収縮力、フランク・スターリングの法則、心拍数と充満時間、心房の収縮
- 同 20.2 Blood Flow, Blood Pressure, and Resistance ── 血流・圧・抵抗の関係、平均血圧、脈圧、血管の半径と抵抗
- 同 20.4 Homeostatic Regulation of the Vascular System ── ショックの定義と種類
- Richard E. Klabunde『Cardiovascular Physiology Concepts』Cardiac Preload(2023年1月改訂)── 前負荷は収縮前の心筋の引き伸ばされ具合で、拡張末期容積や圧を目安にすること
- 同 Cardiac Afterload(2023年1月改訂)── 左心室の後負荷と大動脈の圧、後負荷が大きくなるとき
- 同 Cardiac Inotropy (Contractility)(2023年11月改訂)── 心収縮力と前負荷のちがい、自律神経の作用
- 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(日本循環器学会・日本心不全学会)── 心原性ショックの定義、強心薬、血管拡張薬(前負荷・後負荷)、ノルアドレナリン、NPPV、右心不全の原因(表9:心タンポナーデ、肺動脈血栓塞栓症)
- 2023年 JCS/JSCVS/JCC/CVIT ガイドライン フォーカスアップデート版 PCPS/ECMO/循環補助用心内留置型ポンプカテーテルの適応・操作(日本循環器学会ほか)── 血圧は血管収縮反射で保たれている場合があること、VA-ECMOと後負荷
- IABP駆動装置(ARROW AC3、テレフレックスメディカルジャパン)・IABカテーテル(TRANS-RAY、ゲティンゲグループ・ジャパン)の添付文書 ── IABPと後負荷、心拍数が速いとき
※この記事は一般的な情報であり、個別の医療判断に代わるものではありません。実際の管理は、必ず主治医・指導者・院内の基準にしたがってください。



