VA-ECMO中の体位とリハビリ|ベッドは何度まで上げていいのか

VA-ECMO中の体位とリハビリのアイキャッチ。白と深緑の文字の右側に、頭側をゆるやかに起こした白い病院ベッドと淡い緑のクッション。窓から柔らかな光が差し、奥にはモニターと植物が見える。 🌿補助循環・ICUの看護

「ベッド、何度まで上げていいですか」

ECMOが入っている患者さんを受け持つと、いちばん最初に迷うのが、たぶんここだと思います。

鼠径部から太い管が入っている。動かせば抜けるかもしれない。でも動かさなければ、体は固まっていく。どこまでが安全で、どこからが危ないのか。

この記事では、主に鼠径部からカニューラが入っているVA-ECMO患者さんの体位管理を扱います。国内のエキスパートコンセンサスでは、VA-ECMO装着下の早期離床は原則禁忌とされています。一方、国際的には、患者さんの状態と管理体制を評価したうえで離床を検討する考え方も示されています。安全を守りながら、どんなケアができるのかを整理します。

VA-ECMO中の体位管理 早見表
主に鼠径部からカニューラを挿入している場合
場面 考え方・確認すること
離床 チームで方針を確認
国内コンセンサスでは原則禁忌。患者さんの状態と管理体制を踏まえて判断します。
ベッド上のケア できる範囲を確認
他動運動やポジショニングなど、動かせる部位と範囲をチームで確認します。
ベッド挙上 段階的に、確認しながら
国内ガイドラインでは30度程度までが目安。一律に安全な角度ではありません。
体位を変える前後 患者さん・挿入部・回路を見る
出血、カニューラの位置、回路の折れ曲がり、流量や循環、下肢の血流を確認します。
ポジショニング 穿刺部と神経を守る
穿刺部への負担と、下肢の外旋位による神経の圧迫に注意します。

30度=安全の保証ではありません。
院内の方針と個別の状態に合わせ、実施範囲をチームで確認します。

Q1. 国内のコンセンサスでは、早期離床をどう扱っているのか

日本集中治療医学会の「集中治療における早期リハビリテーション〜根拠に基づくエキスパートコンセンサス」に、はっきり書かれています。

ICUで早期離床を原則行うべきでない場合として15項目が挙げられていて、その4番目がこれです。

不安定な循環動態で、IABPなどの補助循環を必要とする場合

そして解説の本文では、もっと踏み込んで書かれています。

「原則、IABPやPCPS/ECMO(特にVA-ECMO)装着下での早期離床は『禁忌』に該当する扱いとした」

このコンセンサスでは、端座位・立位・歩行などの早期離床を原則見合わせる扱いです。ただし、これを「すべてのVA-ECMO患者さんが、装着期間を通じて離床できない」と広げて読むことはできません。国際的な考え方はQ6で紹介します。

Q2. でも、「何もしない」ではありません

ここが大事なところだと思います。

同じエキスパートコンセンサスには、こうも書かれています。

「ベッド上での他動運動や動かせる範囲の自動運動を禁忌とはしない」

ここでは、早期離床や、離床・ADL拡大に向けた積極的な運動と、ベッド上で行うケアを分けて考えます。

国内コンセンサスで原則見合わせること

  • 端座位になる、立つ、歩く(早期離床
  • ベッド上で体を起こすような積極的な運動 … これも原則見合わせ。ICUの多職種で「リスクよりメリットが十分にある」と包括的に判断できる場合をのぞく

状態に合わせて検討するケア

  • 関節可動域を保つための他動運動(関節拘縮の予防が目的)
  • ポジショニング
  • 動かせる範囲の自動運動

日本循環器学会のガイドラインも、鼠径部から入っている場合は「関節拘縮予防目的の限局的な他動運動にとどめる」としています。

離床を見合わせていても、できるケアはあります。動かせる部位や範囲をチームで確認し、安全に行えるケアを選びます。

Q3. ベッドは何度まで上げていいのか

日本循環器学会のガイドラインに、数字が出ています。

出血やカテーテルの移動・キンクがないことを確認しながら、段階的に30度程度まで。

ここで大事なのは「段階的に」「確認しながら」のほうだと思います。30度は、すべての患者さんに安全を保証する角度ではありません。患者さんの状態と院内の方針に合わせ、出血やカニューラの移動、回路の折れ曲がり、流量や循環の変化を確認しながら進めます。

なぜ屈曲が危ないのか

挿入されているのは鼠径部です。ベッドを上げると、股関節が曲がります。

ガイドラインは、挿入側の下肢の屈曲が原因で、出血やカテーテルの移動を起こすリスクが高いとしています。

カテーテルの位置がずれるということは、脱血管の先端の位置が変わるということです。脱血が悪くなれば流量が落ちます。体位の話が、そのまま循環の話につながっています。

まっすぐを保てないときは

ガイドラインには、穿刺部をまっすぐ維持できない場合は、抑制帯を用いたり、鎮静を深くしたりして、挿入側の合併症を発生させないように努めると書かれています。

カニューラの安全を守る必要があります。ただし、抑制や深い鎮静を一律に選ぶという意味ではありません。同じガイドラインも、不必要な深い鎮静を防ぐ重要性を示しています。痛みや不穏の原因を確認し、必要な対策をチームで検討します。

Q4. 下肢を外旋させない

ここは、看護のケアそのものです。

穿刺部をまっすぐ保とうとすると、下肢は自然と外旋位になりがちです。ところが、そのまま固定されると別の問題が起きます。

ガイドラインの記述はこうです。

下肢が外旋位で固定されると、ベッド柵やクッションなどで腓骨神経が圧迫されやすくなり、腓骨神経麻痺の原因となることがある。

だから下肢を外旋位にさせないようにする、とされています。

2つを、同時に満たす必要があります

  • 穿刺部はまっすぐに保つ(カテーテルを動かさないため)
  • でも外旋させない(腓骨神経を守るため)

この2つを両立させるポジショニングが要ります。クッションを当てる位置が、そのまま結果を分けます。

腓骨神経麻痺は、ECMOを離脱したあとにも残ることがあります。救命できたのに、足が上がらない。そういうことが起こりうる、ということです。

Q5. 動かしたあとに、何を見るのか

ガイドラインは、リハビリに伴って下肢の阻血が生じていないかを確認するように書いています。

  • 足背動脈・後脛骨動脈の拍動を触知する
  • 血中CK値が上がっていないか
  • ミオグロビン尿がないか

送血管が入っている足は、もともと血流が減りやすい状態です。そこへ体位変換が加わる。動かす前と後で、足を見比べることになります。

あわせて、挿入部からの出血カテーテルの位置ずれキンクにも細心の注意を払う、とされています。

Q6. VV-ECMOは、なぜ扱いが違うのか

ここは分けて理解しておく必要があります。

同じエキスパートコンセンサスの中で、VV-ECMOについては違う書き方がされています。

「VV-ECMO装着下での、ベッド上で体を起こすなどの早期からの積極的な運動や早期離床については、トレーニングされたチームによる高度な管理下で慎重に行うことを妨げない」

この国内コンセンサスでは、VA-ECMOは「原則禁忌」、VV-ECMOは高度な管理下で行うことを「妨げない」としています。VV-ECMOなら無条件に離床できる、という意味ではありません。

考えるときの視点は、2つあります

① そもそも、循環が不安定かどうか

禁忌の項目を、もう一度そのまま読んでみます。

不安定な循環動態で、IABPなどの補助循環を必要とする場合

「不安定な循環動態で」から始まっています。装置の種類に加えて、その装置を必要としている体の状態を見る必要があります。

同じ15項目の中には、こういう項目もあります。

体位を変えただけで血圧が大きく変動する場合

VA-ECMOは、重い循環不全に対して循環を支えるために使われます。いっぽうVV-ECMOは、主に呼吸不全に対してガス交換を支えます。ただし、装着中の循環の安定性は、患者さんごと、その時点ごとに確認する必要があります。

体を起こしたときに、血圧が大きく下がるなど、循環が不安定にならないか。まず確認したい点です。

② どこから、何本入っているか

もうひとつが、カニューラの入り方です。

  • この記事で主に扱うVA-ECMO … 大腿静脈から脱血し、大腿動脈へ送血する、鼠径部からの挿入。VA-ECMOには、ほかの挿入方法もあります
  • VV-ECMO … 首(右内頸静脈)からダブルルーメンカニューラを1本、という形が取れる

首からのダブルルーメンカニューラを使う方法では、鼠径部のカニューラによる動作の制約を減らせる場合があります。ただし、それだけで座位や立位が安全になるわけではありません。

ELSOのガイドラインも、はっきりこう書いています。

鼠径部からの挿入や、2か所に分けて挿入する方法が障壁になる施設では、シングルサイトのダブルルーメンカテーテルが離床のしやすさを高めうる

挿入部位や方法は、離床の進め方を考える要素のひとつです。

VA-ECMOでは動脈への送血カニューラがあり、出血や下肢の血流にも注意が必要です。静脈のカニューラも、抜去や位置ずれが重大な事故につながりうるため、どちらも確実な固定と観察が欠かせません。

専門チームによる離床前の評価

ELSOでは、専門チームが離床前に、体の動きによるカニューラや流量への影響を評価する方法も紹介しています。患者さんの状態、カニューラの位置や固定、下肢の血流を確かめ、必要なスタッフがそろった体制で判断することが前提です。

国際的なガイドラインの考え方

ELSOの2024年版「成人ECMO患者の早期リハビリテーション・離床」ガイドライン(論文掲載は2025年)では、ECMO装着中の離床について、患者さんごとの評価と経験のある多職種チームによる管理を重視しています。

そこで紹介されているVV-ECMOの研究では、人工呼吸器を使っていないこと、ECMOの症例数が多い施設であること、ダブルルーメンカニューラであることなどが、離床の実施と関連していました。

これらはVV-ECMOの研究から得られた情報であり、鼠径部からカニューラが入っているVA-ECMOに、そのまま当てはめることはできません。また、鼠径部から挿入されていることだけでは、人工呼吸器の使用状況や施設の経験は判断できません。

国内資料と国際資料では、発行時期や対象、推奨の示し方が異なります。どちらかの一文だけで判断せず、目の前の患者さんの状態と、自施設で安全に実施できる体制をチームで確認する必要があります。

Q7. それでも、動かさないことの害はあります

ここが、この話のいちばん苦しいところです。

日本循環器学会のガイドラインは、動かさないことで起きるものを挙げています。

  • ICU関連筋力低下(ICU-AW) … 急性のびまん性の筋力低下
  • デコンディショニング
  • 関節拘縮
  • 無気肺、排痰障害などの呼吸器合併症

健康な高齢者でも、10日間寝たきりでいると運動耐容能や骨格筋力が12〜13%低下するという報告が引かれています。ICUで大腿の筋層の厚みが減ることは、在院日数の長さと関係することも示されています。

ガイドラインが出している答え

では、どうするのか。

ガイドラインの答えは、「早期に有効性の高いリハビリテーションを開始するためには、血行動態や病態を可及的速やかに安定させ、MCSを早期に離脱することが最も大事である」というものです。

病態を安定させ、安全に離脱できる状態へ近づけることが、リハビリを進める土台になります。

そして、離脱の目途が立たず長期の臥床が避けられない場合は、入れ替えの際に、リハビリテーションを実施しやすい鎖骨下動脈アクセスのIMPELLAやcentral ECMOへの切り替え、VAD植込みを考慮する、とも書かれています。

「動かせないなら、動かせる形に変える」という発想です。ここは看護師が決めることではありませんが、そういう選択肢があると知っていることには意味があると思います。

Q8. 看護師が動ける場面は、3つあります

① ポジショニングを決めるとき

まっすぐ、でも外旋させない。クッションをどこに当てるかを決めているのは、看護師です。日々のケアを担う看護師が、力を発揮できる場面です。

② 体位を変えたあと

足の拍動、刺入部、回路のキンク、流量。「変えたあとに見る」を習慣にできるかどうかです。

③ 「動かしていいですか」と聞かれたとき

そのとき、「この患者さんは、どこまで動かせるとチームで確認していますか」と確かめられるかどうか。国内コンセンサスの慎重な扱いを踏まえ、そのうえで、安全にできる他動運動やポジショニングを一緒に考えられるかどうか。

なお、ガイドラインは、リハビリを行うときは主治医・ICU医師・理学療法士・臨床工学技士・看護師などのチームで適格性を評価し、補助循環装置の操作と管理に精通したスタッフ複数人の立ち会いのもとで慎重に実施するとしています。ひとりで判断してやることではありません。

まとめ ── 覚えるのは4つでいい

  1. 国内コンセンサスではVA-ECMOの早期離床は原則禁忌。患者さんの状態と管理体制を踏まえ、チームで方針を確認する
  2. 安全にできる範囲を確認し、他動運動やポジショニングを行う
  3. 国内ガイドラインの挙上目安は、確認しながら段階的に30度程度まで。一律の安全角度ではない
  4. まっすぐ、でも外旋させない(腓骨神経麻痺)

離床を見合わせていても、できるケアはあります。そして動かさないことの害も、ガイドラインはきちんと書いていました。

動かせないなら、動かせない中でできることを、確実にやる。クッションの位置を決めることも、変えたあとに足を見ることも、そのひとつなのだと思います。

わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。

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参考にした資料

※この記事は一般的な情報であり、個別の医療判断に代わるものではありません。実際の管理は、必ず主治医・指導者・院内の基準にしたがってください。数値はいずれも参考値であり、施設の基準を優先してください。