看護師が知っておきたい医療費控除|対象になるもの・ならないものと、10万円の誤解

記事「看護師が知っておきたい医療費控除|対象になるもの・ならないものと、10万円の誤解」のアイキャッチ画像。窓から光が差し込む明るい病院の相談室に、木のテーブルと緑の椅子が置かれ、テーブルの上には無地の領収書が数枚と白い封筒、電卓、ペン、開いたノート、観葉植物がある。窓の外には緑。右下にブログのキャラクターである象が座っている。 🌿医療制度・お金のこと

前回、高額療養費の記事の最後に、こう書きました。

「1年分の領収書は、とっておいてください」

今回は、その続きです。とっておいた領収書が、どうやって使うの?という話をします。

医療費控除は、名前だけは知られているのに、中身がいちばん誤解されている制度だと思います。

「10万円を超えないと使えない」
「10万円超えたら、超えた分が戻ってくる」

どちらも、正確ではありません。

この記事も前回と同じで、「あっ、それなら少し説明できるかも」というところまでを目指します。

先に、対象になるもの・ならないものを1枚にまとめました。スマホに保存して使ってください。

医療費控除の早見表。計算のしかたは、1年間に払った医療費から保険金などで補填される金額を引き、さらに10万円または総所得金額等の5%の低いほうを引いた額が医療費控除の額(上限200万円)。対象になるものは、診察・治療の費用、治療のための医薬品(市販薬でも治療目的なら可)、入院代と入院中の食事代、通院の交通費(電車・バスなどの公共交通機関)、付添料(所定の料金のみ)、はり・きゅう・マッサージ・柔道整復(治療のため)、助産師による分娩の介助、介護保険サービスの自己負担分(一定のもの)、義手・義足・松葉杖・補聴器・義歯・眼鏡(治療に必要なもの)、喀痰吸引・経管栄養(介護福祉士など)。対象にならないものは、差額ベッド代(本人や家族の都合による個室)、寝巻き・洗面具などの身の回り品、医師や看護師へのお礼、入院中の出前・外食、健康診断・人間ドック(原則)、予防接種や健康増進のビタミン剤・サプリメント、自家用車のガソリン代・駐車場代、タクシー代(公共交通機関が使えるとき)、親族に付添料の名目で払ったお金、里帰り出産のための実家への帰省費用。ただし例外として、健診で重大な疾病が見つかり、そのまま治療した場合は、その健診の費用も対象になる。手続きで間違えやすいところは、年末調整では受けられず確定申告が要ること、領収書は提出しないが5年間の保存が必要なこと、やり忘れても5年さかのぼって申告できること。
  1. Q1. 医療費控除とは、ひとことで言うと?
    1. ここが、いちばんの誤解です
    2. 高額療養費とは、別の制度です
  2. Q2. 「10万円を超えないと使えない」は、正確ではありません
    1. 10万円か、所得の5%か。低いほうです
    2. 家族の分は、まとめられます
    3. 亡くなったあとに払った分は、どうなるか
  3. Q3. 何が対象で、何が対象外か
    1. 対象になるもの
    2. 対象にならないもの
    3. 看護師に関係が深い、3つの意外なところ
      1. ① 入院中の食事代は、こちらでは対象です
      2. ② 通院の交通費は対象。でも、領収書が出ません
      3. ③ 人間ドックは原則対象外。でも、例外があります
  4. Q4. 差し引くものを間違えると、金額が変わります
    1. 戻ってきたお金は、差し引きます
    2. 差し引かなくていいものもあります
    3. 引ききれなくても、他からは引きません
  5. Q5. 手続き ── 年末調整では受けられません
    1. 確定申告が要ります
    2. 領収書は、出さなくていい。でも捨ててはいけない
    3. 5年前までさかのぼれます
    4. 市販薬だけで使える特例もあります
  6. Q6. 看護師が言えるのは、3つで足ります
    1. ① 「領収書は、1年分とっておいてください」
    2. ② 「交通費もメモしておくといいですよ」
    3. ③ 「ご家族の分も、まとめられるそうですよ」
    4. そして、そこから先は渡します
  7. まとめ ── 覚えるのは4つでいい
  8. あわせて読みたい
  9. 参考にした資料

Q1. 医療費控除とは、ひとことで言うと?

1年間に払った医療費の一部を、その年の所得から差し引ける制度です。

所得が減れば、そこにかかる税金も減ります。結果として、払いすぎていた所得税が戻り、翌年度の住民税が軽くなります。

ここが、いちばんの誤解です

「医療費が戻ってくる制度」ではありません。減るのは税金のほうです。

たとえば、控除の対象になる額が20万円だったとします。20万円が戻ってくるわけではありません。

所得税の税率は、その人の所得によって5%から45%まで幅があります。税率が10%の方なら、戻る所得税はおよそ2万円。これに加えて、翌年度の住民税(原則10%)も軽くなります。

つまり「20万円分、税金の計算から外れる」ということです。金額としては小さく感じるかもしれません。でも、手続きをしなければゼロです。

高額療養費とは、別の制度です

前回の記事でも書きましたが、ここは何度でも確認しておきたいところです。

  • 高額療養費=健康保険の制度。申請先は保険者月ごとに区切る。上限を超えた分が戻る。
  • 医療費控除=税金の制度。申請先は税務署1年ごと(1月1日〜12月31日)に区切る。所得から差し引かれる。

片方をやっても、もう片方は自動では処理されません。

Q2. 「10万円を超えないと使えない」は、正確ではありません

よく言われる「10万円」には、続きがあります。

10万円か、所得の5%か。低いほうです

差し引かれるのは、10万円と、総所得金額等の5%のうち低いほうです。総所得金額等が200万円未満の方は、5%のほうが低くなります。

たとえば総所得金額等が150万円の方なら、その5%は7万5千円。7万5千円を超えた分から対象になります。

パートで働いている方、年金で暮らしている方、年の途中で仕事を離れた方。「10万円には届かないから関係ない」と思っている方が、実は対象だったということが起こります。

家族の分は、まとめられます

対象になるのは、自分・配偶者・生計を一にする親族のために払った医療費です。

ポイントは「生計を一にする」という言い方です。これは「同居している」という意味ではありません。離れて暮らしていても、生活費や療養費を送っていれば、あてはまることがあります。

ご本人の分だけでは届かなくても、家族全員をまとめると超えている。これは、よくあります。

なお、控除される額の上限は200万円です。

亡くなったあとに払った分は、どうなるか

国税庁は、亡くなったあとに支払われた医療費は、その方自身の医療費控除にはできないとしています。「その方が支払った」ことにならないからです。

ただし、その医療費が生じたときに生計を一にしていた家族が支払った場合は、その家族の医療費控除の対象になります。

請求書がご家族に渡るのは、たいてい、いちばん気持ちの整理がつかない時期です。看護師がその場で説明することではありませんが、「あとから相談できる」ということだけは、頭の隅に置いておきたいところです。

Q3. 何が対象で、何が対象外か

ここがいちばん、実務に近い話です。

対象になるもの

  • 医師・歯科医師による診療、治療の費用
  • 治療や療養に必要な医薬品の購入費(市販薬でも、治療のためなら対象)
  • 入院した部屋代、入院中の食事代
  • 通院や入院のための交通費(電車・バスなどの公共交通機関)
  • 付添いを頼んだときの付添料(所定の料金のみ)
  • あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師による施術(治療のためのもの
  • 保健師・看護師などによる療養上の世話の費用
  • 助産師による分娩の介助費用
  • 介護福祉士などによる喀痰吸引・経管栄養の費用
  • 介護保険のサービスを使ったときの自己負担分(一定のもの)
  • 治療に直接必要な義手・義足・松葉杖・補聴器・義歯・眼鏡など
  • 骨髄移植・臓器移植のあっせんにかかる患者負担金
  • 特定保健指導の自己負担金

対象にならないもの

  • 差額ベッド代(本人や家族の都合だけで個室にした場合)
  • 寝巻き・洗面具などの身の回り品
  • 医師や看護師へのお礼
  • 親族に「付添料」の名目で払ったお金
  • 入院中の出前や外食
  • 健康診断・人間ドックの費用(原則)
  • 予防接種、健康増進のためのビタミン剤やサプリメント
  • 自家用車のガソリン代・駐車場代
  • 公共交通機関が使えるのに乗ったタクシー代
  • 里帰り出産のための実家への帰省費用

看護師に関係が深い、3つの意外なところ

この一覧の中で、現場で効いてくるのは次の3つだと思います。

① 入院中の食事代は、こちらでは対象です

前回、「食事代は高額療養費の対象外」と書きました。上限とは別にかかるので、説明が要る、と。

でも医療費控除では対象になります。入院代に含まれるものだからです。

同じ費用でも、制度が違えば扱いが違う。ここが混乱のもとです。いっぽう差額ベッド代は、本人や家族の都合による場合、どちらの制度でも対象外です。

② 通院の交通費は対象。でも、領収書が出ません

電車やバスの運賃は対象になります。小さなお子さんの通院に付き添った方の交通費も対象です。

ところが、電車やバスには領収書がありません。

だから日付・行き先・金額をメモしておく必要があります。長く通院する方ほど、この積み重ねは大きくなります。

通院が続くことが決まった場面で言えるとしたら、この一言だと思います。「交通費もメモしておくといいですよ」

なお、自家用車のガソリン代と駐車場代は対象外です。タクシー代は、公共交通機関が使えない事情があるときに対象になります。歩けない、動かせない、深夜である──そういう場合です。

③ 人間ドックは原則対象外。でも、例外があります

ここは、看護師が気づける可能性がある数少ない場面です。

人間ドックや健康診断の費用は、治療ではないので原則として対象になりません。

ただし国税庁は、健診の結果、重大な疾病が見つかり、そのまま治療につながった場合は、その健診の費用も対象になるとしています。治療に先立つ診察と同じように考えられるからです。

健診で見つかって、そのまま入院・手術になる方。循環器でも消化器でも、決してめずらしくありません。その方は、健診の費用まで対象になっている可能性があります。

Q4. 差し引くものを間違えると、金額が変わります

ここは、患者さんに誤った期待を持たせないために知っておきたいところです。

戻ってきたお金は、差し引きます

払った医療費から、保険金などで補填される金額を差し引いてから計算します。

差し引くもの:

  • 高額療養費で戻ってきたお金
  • 出産育児一時金
  • 生命保険や医療保険の入院給付金・手術給付金

つまり「両方まるまる受け取れる」わけではありません。自分で実際に負担した分が、控除の対象です。

差し引かなくていいものもあります

いっぽう、傷病手当金出産手当金は差し引きません。

理由がはっきりしています。これらは働けない間の生活を支えるお金であって、医療費そのものを補填するお金ではないからです。

同じ「健康保険から出るお金」でも、目的が違えば扱いが違います。

引ききれなくても、他からは引きません

これも間違えやすいところです。

補填される金額は、その給付の目的になった医療費を限度に差し引きます。引ききれない分が出ても、他の医療費からは差し引きません。

たとえば入院給付金が入院費を上回ったとしても、その年の他の通院分から引く必要はないということです。

Q5. 手続き ── 年末調整では受けられません

ここでつまずく方が、たぶんいちばん多いところです。

確定申告が要ります

医療費控除は、年末調整では受けられません。会社員でも、自分で確定申告をする必要があります。

「会社がやってくれている」と思っている方は、たくさんいます。やってくれていません。

領収書は、出さなくていい。でも捨ててはいけない

いまは、領収書そのものを提出しません。代わりに「医療費控除の明細書」を作って出します。

ただし領収書は5年間、自宅で保存する必要があります。「出さなくていい」と「捨てていい」は違います。

なお、健康保険から届く「医療費通知」を添付すれば、明細書の記入を簡略化でき、その分の領収書の保存も不要になります。e-Taxでマイナポータル連携を使う方法もあります。

5年前までさかのぼれます

これは、知られていないわりに大きい話です。

医療費控除のような還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間提出できます。

つまり「去年やり忘れた」も、「一昨年の入院の分」も、まだ間に合うということです。3月15日を過ぎたら終わり、ではありません。

市販薬だけで使える特例もあります

セルフメディケーション税制という特例があります。

健康診断や予防接種などを受けている方が、対象の市販薬を買った場合、12,000円を超えた分(上限88,000円)を所得から差し引けます。

ただし通常の医療費控除とは、どちらか一方しか使えません。両方は使えない、という点だけ押さえておけば十分です。

なお、この特例は対象になる医薬品の範囲や適用期限の見直しが続いています。使うときは国税庁のページで最新のものを確認してください。

Q6. 看護師が言えるのは、3つで足ります

制度の説明をする必要はありません。金額を計算する必要もありません。あとから取り返せないものだけ、伝えておく。

① 「領収書は、1年分とっておいてください」

前回と同じ一言です。捨ててしまうと、5年さかのぼれる制度があっても使えません。

② 「交通費もメモしておくといいですよ」

通院が続くことが決まった場面で。領収書が出ないものは、その場でメモするしかありません。

③ 「ご家族の分も、まとめられるそうですよ」

ご本人の分だけを見て「うちは関係ない」と思っている方に。合算できるという事実だけを伝えます。

そして、そこから先は渡します

具体的な金額や、その方が対象になるかどうかは、看護師が答えるところではありません。

ソーシャルワーカー、医事課、税務署。「そういう相談にのる人がいます」と言えれば、それで役目は果たしています。

まとめ ── 覚えるのは4つでいい

  1. 医療費が戻る制度ではなく、税金が減る制度
  2. 10万円か、所得の5%か、低いほう(家族の分は合算できる)
  3. 入院中の食事代と通院の交通費は対象。差額ベッド代は対象外
  4. 年末調整ではできない。5年さかのぼれる

前回の記事を書いたとき、わたしは「知らないままでいるのはもったいない」と書きました。

今回、医療費控除を調べてみて、その気持ちはもっと強くなりました。使える制度があるのに、知らないから使わない。それは、制度がないのと同じことです。

わたしたちは、税金の専門家ではありません。でも、患者さんが「お金が心配です」と最初にこぼす相手ではあります。

そのとき、「その心配には、使える制度があります」と言えるかどうか。そこまでが、看護師の届く範囲なのだと思います。

わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。

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参考にした資料

※この記事は、看護師が制度の存在に気づくための一般的な情報です。個別の金額や、その方が対象になるかどうかは、必ず税務署や医療機関のソーシャルワーカー・医事課にご確認ください。記載の内容は2026年8月時点の国税庁の資料にもとづいています。税制は毎年見直されるため、実際に申告される際は最新の情報をご確認ください。