看護師が知っておきたい傷病手当金|働けない間のお金と、待期3日の数え方

記事「看護師が知っておきたい傷病手当金|働けない間のお金と、待期3日の数え方」のアイキャッチ画像。窓から朝の光が差し込む自宅の部屋の、窓辺の木のデスク。デスクの上に無地の書類が数枚とペン、湯気の立つ白いマグカップ、無地の封筒、観葉植物が置かれている。窓の外には緑。右下にブログのキャラクターである象が座っている。 🌿医療制度・お金のこと

これまで3回、お金の制度について書いてきました。高額療養費医療費控除医療費の負担割合

どれも「出ていくお金」の話です。

「仕事、どうなるんだろう」
「休んだら、給料は出ないですよね」

働き盛りの方が突然倒れて運ばれてきたとき、その方の頭にあるのは、入ってこなくなるお金のほうだったりします。

傷病手当金は、そこを支える制度です。これまでの3本すべてで名前だけは出てきましたが、中身にはふれてきませんでした。今回はここを書きます。

先に、全体を1枚にまとめました。スマホに保存して使ってください。

傷病手当金の早見図。もらえる条件は4つで、業務外の病気やけがであること(仕事中・通勤中は労災)、その仕事に就けない状態であること、連続する3日を含めて4日以上休んだこと、その間給与が出ていないこと(少なければ差額が出る)。待期3日は連続していないと成立せず、有給・土日・祝日も日数に入る。休みが続いた場合は最初の3日が待期で4日目から支給。途中で出勤した場合はそこでリセットされ、数え直して待期3日を満たしてから支給になる。金額は1日あたり月給のおよそ3分の2で、直近12か月の標準報酬月額の平均を30で割って3分の2をかけた額。全額ではない。支給期間は支給を始めた日から通算して1年6か月で、2022年1月から通算になり、途中で復職して働いた日は日数に入らない。見落とされやすいのは、国民健康保険には原則ないこと(自営業・フリーランスの方)、条件を満たせば退職したあとも続くこと、申請書は4枚あって1枚は医師が書くこと。

Q1. 傷病手当金とは、ひとことで言うと?

病気やけがで働けない間、健康保険から生活を支えるお金が出る制度です。

ここまでの3本とは、向きが逆になります。

  • 高額療養費・医療費控除・負担割合 … 治療にかかる、出ていくお金を軽くする
  • 傷病手当金 … 働けない間の、入ってくるお金を支える

だから、医療費控除の記事で書いたように、傷病手当金は医療費控除の計算で差し引きません。医療費そのものを補填するお金ではなく、暮らしを支えるお金だからです。

Q2. もらえる条件は、4つそろったときです

  1. 業務外の病気やけがで療養していること
  2. その仕事に就けない状態であること
  3. 連続する3日を含めて、4日以上仕事を休んだこと
  4. その間、給与が出ていないこと

③の「連続する3日」がいちばん間違えられるところなので、次のQ3でくわしく書きます。ここでは残りの3つにふれます。

① 業務外であること

仕事中や通勤中の病気・けがは、労災保険のほうです。傷病手当金は出ません。

前回の記事でも書いたところです。受傷の状況を最初に聞くのは看護師なので、ここは重なります。

② 働けない状態であること

全国健康保険協会は、「療養担当者の意見等を基に、被保険者の仕事の内容を考慮して判断」すると書いています。

つまり「その人の仕事に照らして」です。同じ病状でも、デスクワークの方と重い物を運ぶ方では判断が変わります。

④ 給与が出ていないこと

給与が出ている間は支給されません。ただし給与が傷病手当金より少ない場合は、その差額が支給されます。

Q3. いちばん間違えられるのが「待期3日」です

ここだけは、少していねいに書きます。

連続していないと、成立しません

最初の3日間は「待期」といって、支給されません。支給が始まるのは4日目からです。

そしてこの3日は、連続していなければ成立しません。途中で1日でも出勤すると、そこでリセットされて、数え直しになります。

有給も、土日も、日数に入ります

ここが誤解されやすいところです。

待期の3日には有給休暇も、土日・祝日などの公休日も含まれます。協会けんぽは「給与の支払いがあったかどうかは関係ありません」と明記しています。

つまり「有給を使ったから待期にならない」のではなく、休んでいれば日数として数えます。

Q4. いくら出るのか

1日あたりの金額は、こう決まります。

支給開始日以前の、続いた12か月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30 × 3分の2

ざっくり言えば、月給のおよそ3分の2です。

ここは期待とずれやすいところだと思います。全額は出ません。収入が3分の2になった状態で、治療費も払いながら暮らすことになります。

働き始めて1年たっていない場合

12か月分がそろわない方は、次の2つのうち低いほうで計算します。

  • その方の、被保険者だった期間の標準報酬月額の平均
  • 加入している保険者の全被保険者の平均(協会けんぽの場合、支給開始日が2025年4月1日以降なら32万円

減ったり、出なくなったりする場合

  • 出産手当金と重なる期間 … 出産手当金が優先されます(出産手当金のほうが少なければ差額)
  • 同じ病気で障害厚生年金を受けている … 原則として支給されません(年金の日額=年額÷360 が傷病手当金の日額より低ければ、その差額)
  • 退職後に老齢年金を受け始めた … 同じ考え方で、原則として支給されません

Q5. いつまで出るのか ── 通算で1年6か月

支給を始めた日から、通算して1年6か月です。

この「通算」という言葉が、実は大事です。

2022年1月に、数え方が変わりました

それ以前は、支給を始めた日から暦の上で1年6か月でした。途中で復職して働いていても、時計は進み続けていたのです。

いまは働いた日は日数に入りません。休んだ日だけを積み上げて、それが通算1年6か月に達するまで支給されます。

なぜ変わったのか

厚生労働省の資料に、はっきり書かれています。治療をしながら働き続ける方が増えたからです。

がんの治療は、再発や転移で休みが飛び飛びになります。古い数え方では、働こうとした人ほど損をする形になっていました。

協会けんぽの集計(2018年度)では、傷病手当金を受けた理由の約2割ががんでした。平均の支給期間は164日、精神疾患では212日です。長く休むことは、めずらしくありません。

Q6. 見落とされやすい3つ

① 国民健康保険には、原則ありません

これがいちばん大きいと思います。

傷病手当金は、会社員などが入る健康保険(被用者保険)の給付です。市区町村の国民健康保険では、国民健康保険法で「行うことができる」とされているだけの任意給付で、実際に行っている市区町村はまれです。

つまり自営業の方、フリーランスの方、農業の方は、休んでも入ってくるお金の当てがないということが起こります。

同じ病気で同じだけ休んでも、入っている保険で、その後の暮らしがまるで違います。

② 退職したあとも、続くことがあります

「辞めたら終わり」だと思っている方が多いところです。

次の2つを満たしていれば、退職後も引き続き受けられます。

  • 退職日の前日までに、継続して1年以上被保険者だったこと
  • 退職するときに、傷病手当金を受けている(または受けられる条件を満たしている)こと

ただし注意があります。退職後に任意継続に入った場合、そこで新しく発症した病気には支給されません。在職中から続いているものだけです。

③ 申請書は4枚あって、1枚は医師が書きます

ここは、看護師にいちばん近い話かもしれません。

  • 1枚目・2枚目 … 本人が書く
  • 3枚目 … 会社が書く
  • 4枚目 … 療養担当者、つまり医師が書く

医師の記入が要るということは、受診のたびに書いてもらう流れになるということです。1か月分ずつ申請していくと、そのつど医師の記入が必要になります。

「先生に書いてもらう書類がある」と知っているだけで、外来の予約や、退院前の段取りの声かけが変わります。

Q7. 看護師が気づける場面は、3つあります

① 「仕事、どうしよう」と言われたとき

これが最大の場面です。

金額や条件を説明する必要はありません。「休んでいる間のお金の制度があります」と伝えて、ソーシャルワーカーにつなぐ。それで足ります。

② お仕事を聞いて、自営業だと分かったとき

傷病手当金がない可能性が高い方です。

代わりに使えるものがあるかどうかは、看護師が判断することではありません。ただ「この方は、休んだ分がそのまま収入の穴になる」と気づけるかどうかで、退院支援の相談のしかたが変わります。

③ 仕事中・通勤中のけがだったとき

こちらは労災です。傷病手当金ではありません。

前回の記事にも書きましたが、受傷の状況を最初に聞くのは看護師です。「お仕事中でしたか」の一言が、ここでも効いてきます。

そして、そこから先は渡します

その方が対象になるのか、いくらになるのか、いつまで出るのか。そこは看護師が答えるところではありません。

ソーシャルワーカー、会社の担当者、加入している保険者。「相談できる人がいます」と言えれば、それで役目は果たしています。

まとめ ── 覚えるのは4つでいい

  1. 働けない間の生活を支えるお金。治療費の制度ではない
  2. 最初の3日は出ない。連続していないと、数え直しになる
  3. およそ月給の3分の2が、通算1年6か月まで
  4. 国民健康保険には、原則ない

この4本を書いてきて、いま思うことがあります。

わたしたちは、目の前の患者さんの体のことはよく見ています。呼吸の変化にも、顔色にも気づきます。

でも、その方がどんな保険に入っていて、休んだ分がどうなるのか。同じ病気で同じだけ入院しても、そのあとの暮らしはまったく違います。

全部を知る必要はないと思います。ただ、「その心配には、相談できる人がいます」と言えるかどうか。

それは、いちばんそばにいる看護師にしかできないことなのだと思います。

わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。

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参考にした資料

※この記事は、看護師が制度の存在に気づくための一般的な情報です。金額・期間・対象になるかどうかは、必ず加入している保険者(協会けんぽ・健康保険組合・共済組合など)や、医療機関のソーシャルワーカーにご確認ください。健康保険組合や共済組合では、独自の上乗せ給付がある場合や、計算の分母が異なる場合があります。国民健康保険の傷病手当金の有無は、お住まいの市区町村にご確認ください。記載の内容は2026年8月時点のものです。