「医療費の自己負担は3割」
たぶん、多くの人がそう思っています。わたしもそうでした。
でも、病棟を見わたすと、3割の人ばかりではありません。2割の人がいて、1割の人がいて、窓口で1円も払っていない人もいます。
この2回、高額療養費と医療費控除について書きました。どちらも「自己負担した額」から始まる制度です。
では、その自己負担はどう決まっているのか。いちばん手前にあるのに、いちばん飛ばされてきた話だと思います。
正直に書くと、わたし自身、調べるまできちんと説明できませんでした。特に「0円」と「10割」を、割合の一種だと思っていました。それが違うと分かったところが、今回いちばんの収穫でした。
先に、全体を1枚にまとめました。スマホに保存して使ってください。

Q1. まず、年齢で決まります
土台はここです。年齢だけで、いったん決まります。
- 小学校に上がる前 … 2割
- 小学生〜69歳 … 3割
- 70〜74歳 … 2割
- 75歳以上 … 1割
「小学校に上がる前」というのは、正確には「義務教育就学前」です。6歳の誕生日ではありません。6歳になったあと、最初の3月31日まで。つまり小学校に入学する直前の3月末までが2割です。
切り替わるタイミングが、70歳と75歳で違います
ここは知っておくと、意外なところで効いてきます。
- 70歳 … 誕生月の翌月から2割(1日生まれの方は、その月から)
- 75歳 … 誕生日の当日から後期高齢者医療制度に移ります
70歳は月単位で、75歳は日単位です。
つまり75歳の方は、月の途中で加入している保険そのものが変わります。それまでの保険と、後期高齢者医療制度と、ひと月に2つの制度をまたぐことになる。
このままだと、その月だけ自己負担の上限が2回分かかってしまうので、75歳になった月については、上限額の計算に特例が設けられています。細かい計算は看護師の仕事ではありませんが、「75歳の誕生月は、いつもと違うことが起きる」とだけ知っていれば、相談につなげられます。
Q2. そこに、所得が上書きします
年齢で決まった割合は、所得によって書き換えられます。
ここが「同じ年齢なのに違う」の正体です。
70歳以上でも「現役並み所得」なら3割
基準は課税所得145万円以上です。あてはまると、70歳を過ぎても、75歳を過ぎても3割のままです。
ただし、ここに続きがあります。
課税所得が基準を超えていても、収入の合計が単身で383万円未満、複数世帯で520万円未満なら、申請することで割合を下げられます。
「申請すれば」です。黙っていても下がりません。ここを知らずに3割のままの方がいます。
75歳以上でも「一定以上の所得」なら2割
2022年10月にできた区分です。基準は2つあって、両方を満たすと2割になります。
- 課税所得が28万円以上
- 年金収入+その他の合計所得金額が、単身で200万円以上(複数世帯なら合計320万円以上)
なお、遺族年金と障害年金は、この計算に含みません。
所得の区分は、毎年8月に切り替わります
これは前回、前々回の記事ともつながる話です。
負担割合も、高額療養費の上限額も、前年の所得をもとに毎年8月に見直されます。だから7月と8月で、同じ人の負担が変わることがあります。
長く入院している方が「先月と金額が違う」と言われたとき、8月をまたいでいないか。ここに思い当たるかどうかで、次の一手が変わります。
Q3. 終わった制度が、まだネットに残っています
ここは、調べていていちばん危ないと感じたところです。
75歳以上の方が1割から2割になったとき、急に負担が増えないように「配慮措置」が設けられていました。ひと月の外来で、増えた分を3,000円までに抑えるという仕組みです。
これは3年間の期限つきでした。2022年10月に始まり、2025年9月30日で終了しています。
もうありません。
ところが検索すると、配慮措置がある前提の説明がまだたくさん出てきます。制度の記事は、書かれた時期を見ないと危ないという、いい例だと思います。
Q4. 「0円」は、割合が0なのではありません
ここが、わたしがいちばん誤解していたところです。
窓口で0円の方がいます。でもその人の負担割合が0割になっているわけではありません。
割合は3割なら3割のまま。その3割を、公費や自治体の助成が肩代わりしているのです。払う人が変わっているだけで、医療費が消えているわけではありません。
肩代わりしている主なもの
- 子ども医療費助成 … 自治体の制度。対象年齢も、所得制限も、窓口で無料になるかどうかも、自治体ごとに違います
- 生活保護の医療扶助 … 医療券で受診し、原則として自己負担はありません
- 指定難病の医療費助成 … 3割の方は2割に下がり、さらに月ごとの自己負担上限がつきます
- 自立支援医療 … 原則1割になり、月ごとの上限がつきます
指定難病と自立支援医療は、「自己負担上限額管理票」を持ち歩いて、受診のたびに記入してもらう仕組みです。上限に達したら、その月はそれ以上かかりません。
看護師が気づけるのは、ここです
受給者証や医療証を持っているのに、窓口で出していない方がいます。
財布に入れっぱなしになっていたり、そもそも入院時に出すものだと思っていなかったり。持ち物を一緒に確認する場面があるのは、看護師です。
Q5. 「10割」は、保険を使っていない状態です
こちらも、割合の話ではありません。そもそも保険を使っていないということです。
- 保険証を持たずに受診したとき … いったん全額払います。ただし、あとから保険者に請求すれば7割分は「療養費」として戻ってきます
- 自由診療、美容目的の医療 … 保険の対象外です
- 健康診断・人間ドック・予防接種 … 治療ではないので対象外です
- 労災 … あとで詳しく書きます
労災は、健康保険が使えません
ここは現場で実際に起きるので、独立して書きます。
仕事中や通勤中のけが・病気には、健康保険は使えません。労災保険のほうを使います。
そして労災指定医療機関にかかれば、窓口での支払いは原則ありません。3割でも1割でもなく、0円です。
問題は、本人が労災だと気づかずに健康保険証を出してしまうことです。
これが起きると、あとから健康保険に7割分を返して、労災保険に請求し直すという手間のかかる切り替え手続きが必要になります。
「仕事中に転んで」「配達の途中で」──そういう話を最初に聞くのは、たいてい看護師です。そこで「あ、これは労災かもしれない」と思えるかどうか。ここは、気づけば確実に相手の負担が減る場面です。
Q6. 看護師が気づける場面は、3つあります
割合を暗記する必要はありません。金額を計算する必要もありません。
① 70歳・75歳の節目にかかっているとき
入院が長引いて誕生日をまたぐ方、ちょうどその年齢の方。「変わるタイミングかもしれない」と気づけるだけで十分です。
② 受給者証や医療証を持っているのに、出していないとき
難病、自立支援医療、子ども医療、障害者医療。持ち物を一緒に見る場面で、一言聞けます。
③ 仕事中・通勤中のけがなのに、健康保険証が出ているとき
受傷の状況を聞くのは看護師です。「お仕事中でしたか」の一言が、あとの手続きを大きく変えます。
そして、そこから先は渡します
その方が実際にどの区分にあたるのか、いくらになるのか。そこは看護師が答えるところではありません。
ソーシャルワーカー、医事課、保険者。「確認してもらえる人がいます」と言えれば、それで役目は果たしています。
まとめ ── 覚えるのは4つでいい
- まず年齢で決まり、そこに所得が上書きする
- 70歳は誕生月の翌月から、75歳は誕生日の当日から(区分は毎年8月に切り替わる)
- 「0円」は割合が0なのではなく、公費や助成が肩代わりしている
- 「10割」は保険を使っていない状態。労災には健康保険が使えない
この3回、お金の制度について書いてきました。
書きながらずっと感じていたのは、知らないことを、知らないまま通り過ぎてきたということです。目の前の患者さんが1割なのか3割なのか、考えたこともありませんでした。
でも、その割合の違いは、その人の暮らしにそのまま乗っています。治療を続けられるかどうかに、関わってくることもあります。
全部を覚える必要はないと思います。ただ、「ここは自分の管轄ではないけれど、確認してもらったほうがいい場面だ」と気づける。そこまでは、いちばんそばにいる看護師の仕事なのだと思います。
わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。
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- 看護師が知っておきたい医療費控除|対象になるもの・ならないものと、10万円の誤解
- 看護師が知っておきたい傷病手当金|働けない間のお金と、待期3日の数え方
参考にした資料
- 医療費の一部負担(自己負担)割合について(厚生労働省)── 年齢区分ごとの割合、現役並み所得者の基準
- 後期高齢者の窓口負担割合の変更等(厚生労働省)── 75歳以上の2割の基準、配慮措置の内容と終了時期
- 70歳から74歳の方の医療費の窓口負担についてのお知らせ(厚生労働省)── 70歳で切り替わるタイミング
- 75歳到達月における自己負担限度額の特例(厚生労働省)── 月の途中で制度が変わることへの対応
- 指定難病患者への医療費助成制度のご案内(難病情報センター)── 3割から2割へ、自己負担上限額管理票
- 自立支援医療制度の概要(厚生労働省)── 原則1割と月額上限、重度かつ継続
- 健康保険証を使って受診してしまいました。どうしたらよいでしょうか(厚生労働省)── 労災と健康保険の切り替え手続き
※この記事は、看護師が制度の存在に気づくための一般的な情報です。個別の負担割合や金額は、必ず加入している保険者(協会けんぽ・健康保険組合・市区町村・後期高齢者医療広域連合など)や、医療機関のソーシャルワーカー・医事課にご確認ください。子ども医療費助成をはじめ自治体の制度は地域によって内容が異なります。記載の内容は2026年8月時点のものです。負担割合と高額療養費の見直しは今後も予定されているため、実際にご案内される際は最新の情報をご確認ください。



