前負荷・後負荷をわかりやすく|看護学生のための循環のきほん

看護学生向けの記事「前負荷・後負荷をわかりやすく|看護学生のための循環のきほん」のアイキャッチ。白とごく淡いグリーンの水彩の背景。左側に、紺色の大きなバッジ「看護学生のための」、紺色の太い文字で「前負荷・後負荷をわかりやすく」、その下に「循環のきほん」。右側には、長い茶色の髪で淡い黄色の服を着た象の女の子が、首に聴診器をかけ、淡いピンクのハートを抱えて、片足を上げながら笑顔で文字のほうを指さしている。 🌿循環・補助循環の看護

実習で「この患者さん、前負荷が下がっているね」と言われて、うなずいたけれど、本当はよく分からなかった。そんな経験はありませんか。

前負荷・後負荷は、教科書の言葉がかたく、イメージしにくいところだと思います。

この記事では、心臓の「ためて、送り出す」という動きから、前負荷・後負荷・心拍数・心収縮力の4つを、できるだけやさしく説明します。

※内容は、標準的な生理学の教科書(OpenStax『Anatomy and Physiology 2e』)と、循環生理の教科書の著者による解説(Klabunde『Cardiovascular Physiology Concepts』)をもとにしています。文中の「たとえ」は、イメージをつかむためのもので、体のしくみをそのまま表したものではありません。

1. 心臓の仕事は「ためて、送り出す」

心臓は、全身に血液を送るポンプです。そのポンプは、2つの動きをくり返しています。

  • ためる:心臓がゆるんで、中に血液がたまる(拡張期)
  • 送り出す:心臓が縮んで、血液を押し出す(収縮期)

教科書でも、血液を送り出すために縮む時期を「収縮期」、ゆるんで血液がたまる時期を「拡張期」と説明しています。

これから出てくる4つの言葉は、この「ためる」と「送り出す」のどこに関わるのかを考えると、分かりやすくなると思います。

2. 心拍出量は「1回に送る量 × 1分間の回数」

心臓が1分間に送り出す血液の量を、心拍出量といいます。次のかけ算で表されます。

心拍出量 = 1回拍出量 × 心拍数

  • 1回拍出量:1回の収縮で送り出す血液の量
  • 心拍数:1分間に何回拍動するか

教科書には、安静時の目安として、1回拍出量はおよそ70mL、心拍数はおよそ75回/分、心拍出量は平均でおよそ5.25L/分と書かれています。

このかけ算から分かるのは、送り出す量を変えるには「1回の量」を変えるか、「回数」を変えるかの2つの道しかない、ということです。

3. 4つの因子を、ひとことずつ

教科書では、1回拍出量を決めるおもな要素として、前負荷・後負荷・心収縮力の3つが挙げられています。これに心拍数を加えた4つが、心拍出量を決める因子です。

心拍出量を決める4つの因子の図。上に「心拍出量=1回拍出量×心拍数」の式。左のコマ「ためる(拡張期)」では、僧帽弁が開いて左心房から左心室へ赤い血液が流れ込み、大動脈弁は閉じ、左心室が血液でたっぷり満たされている(①前負荷:収縮の直前の、心室の筋肉の引き伸ばされ具合)。右のコマ「押し出す(収縮期)」では、僧帽弁が閉じ、大動脈弁が開いて、縮んで壁が厚くなった左心室から大動脈へ血液が押し出される(1回拍出量)。左心室の壁の内向きの矢印は④心収縮力(心臓の筋肉が縮む力)、だんだん細くなる動脈は②後負荷(血液を押し出すときの抵抗、血管の抵抗)。2つのコマをつなぐ回る矢印は③心拍数(1分間に「ためる」「押し出す」を何回くり返すか。速すぎると、ためる時間が短くなる)。
図:心拍出量を決める4つの因子。左心室が血液を「ためる(拡張期)」と「押し出す(収縮期)」をくり返す中で、前負荷・後負荷・心拍数・心収縮力がどこに関わるかを示しています。左心だけを簡略化して描いています。生理学の教科書(OpenStax『Anatomy and Physiology 2e』)の説明をもとに作成。

① 前負荷 ── 縮む前に、どれだけ引き伸ばされているか

前負荷は、心室が縮む直前に、心臓の筋肉がどれくらい引き伸ばされているかを表します。

筋肉の伸び具合は、直接は測れません。そこで、心室にたまっている血液の量(拡張末期容積)などを目安にします。まずは「心室にどれくらい血液がたまっているか」と結びつけて考えると、イメージしやすいと思います。

たとえるなら、ゴムひもです。ゴムひもは、引き伸ばすほど強く縮もうとします。

心臓の筋肉も、ある範囲までは似ていて、引き伸ばされるほど強く縮み、1回拍出量が増えるとされています(フランク・スターリングの法則)。

反対に、心臓に戻ってくる血液が少ないと、心室は十分にふくらまず、送り出せる量も減ります。前負荷は、「縮む前に、どれだけ伸ばされているか」の話です。

② 後負荷 ── 送り出すときに乗り越える負担

後負荷は、心室が血液を送り出すときに、乗り越えなければならない負担です。

左心室の後負荷は、大動脈の圧と深く関係しています。大動脈の圧や血管の抵抗が高いとき、大動脈弁が狭くなって開きにくいとき(大動脈弁狭窄)に、後負荷は大きくなるとされています。

たとえるなら、ホースで水を押し出すときの重さです。細いホースほど、押し出すのに力がいります。実際の血管も、縮んで細くなると抵抗が大きくなります。

後負荷が大きいほど、1回に送り出せる量は減る方向に働きます。後負荷は、「出口の重さ」の話です。

③ 心拍数 ── 1分間に何回送るか

心拍出量は「1回の量 × 回数」なので、心拍数が増えると、心拍出量は増える方向に働きます。

ただし、速くなりすぎると、血液をためる時間(拡張期)が短くなり、心室にたまる血液が減って(前負荷が下がって)、1回に送り出す量が減ります。そのため、心拍出量がかえって下がることがあります。どのくらい速いと影響が出るかは、人や心臓の状態によって違うと思います。

反対に、遅すぎると、1分間に送る回数が少ないので、心拍出量は減ります。心拍数にはちょうどよい範囲があると考えておくとよいと思います。

心拍数が遅すぎるとき・ちょうどよいとき・速すぎるときを比べた図。3段とも同じ長さの横の帯に、ためる(拡張期、水色)と押し出す(収縮期、赤)がくり返し並ぶ。遅すぎる段は回数が少なく、右の左心室は血液で満たされている(1分間に送る回数が少ない)。ちょうどよい段は、ほどよい回数で、左心室は満たされている(しっかりためて、しっかり送る)。速すぎる段は回数が多く、ためる部分がとても短く、左心室にたまる血液が少ない(ためる時間が短く、たまる血液が少ない、前負荷が下がる)。
図:心拍数が遅すぎるとき・ちょうどよいとき・速すぎるとき。横の帯は同じ時間の長さで、ためる(拡張期)と押し出す(収縮期)のくり返しを表しています。帯の長さは目安で、実際の時間の比率を示すものではありません。生理学の教科書(OpenStax『Anatomy and Physiology 2e』)の説明をもとに作成。

④ 心収縮力 ── 心臓の筋肉そのものが縮む力

心収縮力は、心臓の筋肉そのものが縮む力の強さです。強く縮むほど1回拍出量は増え、弱いと減ります。

前負荷とのちがいは、同じだけ引き伸ばされていても、どれだけ強く縮めるかという点です。前負荷は「縮む前の伸び具合」、心収縮力は「筋肉そのものの力」と分けて考えると、混ざりにくいと思います。

たとえるなら、ポンプを押す手の力です。交感神経の働きで、心収縮力は強くなるとされています。

4つをまとめると

因子ひとことで言うとたとえるなら増えると・強くなると
前負荷縮む直前の、心室の筋肉の引き伸ばされ具合(心室にたまった血液の量で考える)ゴムひもの伸び生理的な範囲では、1回拍出量が増える
後負荷送り出すときに乗り越える負担(大動脈の圧、血管の抵抗など)細いホースで水を押し出す重さ1回拍出量は減る方向に働く
心拍数1分間に何回送るかポンプを押す回数心拍出量は増える方向に働く。ただし速すぎると、ためる時間が短くなり、かえって下がることがある
心収縮力心臓の筋肉そのものが縮む力ポンプを押す手の力1回拍出量が増える
OpenStax『Anatomy and Physiology 2e』19.4 と Klabunde『Cardiovascular Physiology Concepts』の説明をもとに作成。「たとえるなら」の列は、イメージをつかむためのものです

4. 例で考える:出血すると、なぜ血圧が下がるの?

4つの因子を使って、出血したときに体の中で起きていることを、順番に整理してみます。

  1. 出血で、体の中の血液の量が減る
  2. 心臓に戻ってくる血液が減り、心室にたまる量が減る(前負荷が下がる)
  3. 1回に送り出せる量(1回拍出量)が減る
  4. 心拍出量が減り、血圧が下がる方向に働く

教科書でも、血液の量が減ると、血圧と血流は下がるとされています。

ただ、体はすぐにあきらめるわけではありません。血圧が下がると、交感神経の働きで心拍数を上げて心拍出量を増やし、末梢の血管を縮めて、血圧を保とうとする反射があります(圧受容器反射)。

そのため、出血していても、血圧がしばらく保たれることがあります。血圧が正常だからといって、出血や循環の悪化がないとは言い切れないと思います。

だからこそ、血圧の数字だけでなく、ほかのサインも一緒に見ることが大切だと思います。

5. 実習で見るところ

教科書では、循環が組織に十分な酸素や栄養を届けられなくなった状態(ショック)や、出血などで血液が減ったときに、次のような変化がみられる、とされています。

見るところ教科書に書かれている変化
脈速くなる。出血などで血液が減ったときは、弱く細い脈になる
血圧下がる。ただし、正常に保たれていることもある
手足の皮膚出血などで血液が減ったときは、末梢の血流が減って、冷たく、じっとりする(とくに手足)
尿の量大きく減る
意識混乱したり、意識を失ったりすることがある
生理学の教科書(OpenStax『Anatomy and Physiology 2e』20.4)のショックの説明をもとに作成

さきほどの圧受容器反射(交感神経の働きで心拍出量を増やし、末梢の血管を縮める)と重ねて見ると、脈が速いことや手足が冷たいことが、体の中の動きとつながって見えてくると思います。

ひとつの数値だけで判断せず、「さっきと比べてどう変わったか」を、脈・血圧・手足の冷たさ・尿の量・意識とあわせて見ていけるといいと思います。

実習で報告するときは、「血圧が下がりました」だけでなく、「脈が速く、手足が冷たく、尿が減っています」と一緒に伝えられると、指導者や医師が考える材料が増えると思います。

原因を判断するのは医師です。気になる変化に気づいたら、自分だけで抱えこまず、すぐに指導者や受け持ちの看護師に伝えることが、いちばん大切だと思います。

6. もっとくわしく知りたい人へ

薬や補助循環(IABP・インペラ・VA-ECMO)が4つの因子のどこに効いているのか、ショックの4つの種類、血圧と心拍出量の関係などは、現場で働く看護師向けの記事にまとめています。

おわりに

前負荷・後負荷は、言葉はむずかしく見えます。でも、「ためて、送り出す」のどこの話なのかが分かると、ぐっと身近になると思います。

「前負荷」と聞いたら「縮む前に、どれだけ伸ばされているか」。「後負荷」と聞いたら「出口がどれだけ重いか」。そう思い浮かべられたら、実習で聞く言葉が、少しずつつながって見えてくると思います。

あなたが実習で「よく分からない」と感じた循環の言葉は、どれですか。

わたしは、看護が好きです。
だからこそ、看護の価値を問い続けていたいと思っています。

参考にした資料

※この記事は一般的な情報であり、個別の医療判断に代わるものではありません。実習では、必ず指導者・実習施設の基準にしたがってください。